アルベルト工房
まさか、いきなり領代から指名依頼がくるとは思わなかったが、聞けば納得だった。
ハンターが狩りをしないから食材が少なくなってきてる上に、
問題のエビル・ドレイクは、G―Iランクになるらしい。
同じGランクという意味じゃブラック・フェンリルと同じだが、こちらは異常種だからモンスターズランクだとPランク相当になる。
だがフェザー・ドレイクやエビル・ドレイクは空を飛んでるから、ある意味じゃブラック・フェンリルよりも厄介かもしれない。
救いがあるとすれば、エビル・ドレイクはデカいし森に棲んでるから、動きを制限されてる可能性があるってことだな。
だけどドラゴンの亜種だけあって、攻撃力も防御力も高く、しかもフェザー・ドレイクは体中に羽毛が生えていて、その羽毛がまた硬いって話だ。
その羽毛、滅多に出回らない高級素材って話だから、余裕があったら確保しときたいな。
今からミーナの案内でアルベルト工房ってとこに行くことにはなったんだが、それでも明日は一日フリーにしてもらったぞ。
なにせ、今日フィールに着いたばかりだし、ブラック・フェンリルやグリーン・ファングを狩ったばかりなんだからな。
一日ぐらいはゆっくりさせてもらわんと疲れがとれないし、これから買う武器や防具の試着に、ポーションや生活必需品なんかも買わないといけない。
領代もそれは理解してくれたから、明日は準備が終わったら、ゆっくりさせてもらう予定になっている。
話の分かる貴族で助かったわ。
あの後俺とプリムは、正式に領代からの依頼を受け、ブラック・フェンリルとかの買取額と報酬を受け取ってからハンターズギルドを出た。
災害種に異常種の買取報酬だから、総額で142万400エルとかなり高額になってしまったんだが、またしてもプリムに受取拒否をされてしまった。
だけどレイドを組んだわけだし、これから武器や防具を買いに行くわけだから、俺はレイドとしてのルールを決めることで、無理やりプリムにも受け取らせている。
そのルールは、依頼の報酬や買取額の半分をレイドの活動資金とし、残り半分を山分けする、といったものだ。
依頼の報酬は依頼を受けた者だけが対象だが、買取額に関しては倒した者の人数割りとした。
最初プリムは、自分1人で倒したのはウインド・ウルフやグラス・ウルフ、グリーン・ウルフが数匹だと言って受け取ろうとしなかったんだが、プリムが足止めをしてくれてたから、ブラック・フェンリルを倒すことができたってことで押し切った。
軽くケンカになってしまったが、アプリコットさんに何かを言われてお互いに落ち着いたから、そうじゃなかったら、今もまだケンカしてたかもしれないな。
今回は計算が面倒だったこともあるから、互いに35万エルずつを受け取って、残りの72万400エルをレイドの活動資金に回すことにしてある。
今後も計算が面倒な場合は、レイド資金に回すようにしとくか。
それと武器の購入費は、自費で出すことにした。
いずれは武器だけじゃなく防具も注文してみたいが、どうなるかはわからないから、とりあえず保留にした感じだな。
さらに活動資金には、ザックで受け取った盗賊の報酬も含めてあるから、現時点で100万エルを超えている。
あ、ハンターズライセンスの代金は、アプリコットさんの護衛依頼の内ってことになってるから、アプリコットさん持ちだぞ。
そのアプリコットさんは、オネストを連れてフレデリカ侯爵邸へ向かった。
アプリコットさんとしては、オネストの食費ぐらいは払うつもりだったんだが、フレデリカ侯爵もソフィア伯爵もアーキライト子爵も、誰1人として受け取ろうとはしなかった。
フレデリカ侯爵もグラントプスを所有してるし、アーキライト子爵はワイバーンを所有していた。
ソフィア伯爵なんてバトル・ホースっていう馬型の魔物を何頭も持ってるから、食費や維持費がとんでもないことぐらいは知ってるはずなんだがな。
バトル・ホースってのは見た目は馬だが、蹄が3つに割れてて、そこから爪を伸ばすことができる魔物だ。
鬣も長くて見た目もいいんだが、恐ろしいことに馬の三倍は食べるし、しかも肉も食う。
ソフィア伯爵は、伯爵家で使う馬を全てバトル・ホースにしてるから、どれだけ維持費がかかってるのか想像するだけでも恐ろしい。
それだけバトル・ホースに愛情を注いでるってことだが、その甲斐あってかソフィア伯爵の愛馬は、ウォー・ホースっていう希少種に進化してるそうだ。
これはかなり有名な話で、ソフィア伯爵はバトル・ホース育成のスペシャリストとして、クラフターズギルドからPランク育成師に認定されている。
「ここがアルベルト工房です」
そんなことを思い出していると、目的地のアルベルト工房に到着か。
アルベルト工房は、中央通りからさらに北に進んだ突き当りにあった。
案内は引き続き、ミーナが引き受けてくれている。
「へえ。裏はベール湖なのね」
「はい。私も憧れています。こういう家に住んでみたいですよね」
気持ちはわかるな。
いずれは拠点として家を買うつもりでいるから、そん時はこんな感じの家を探すか建てるかしてみるか。
「やっぱり、もう閉まってますね」
入り口に掛けられたクローズの札を見て、ミーナが呟いた。
アルベルト工房は武器、防具の販売、製作や修理も行ってるそうだが、ここ半月は来店するハンターも少ないと聞いている。
そりゃそうだろ。
狩りにも行かないで、街の人に迷惑しかかけてないハンター崩れしかいないんだから、武器や防具なんて売れるわけがないし、中にはハンターには売らないって断言してる店まであると聞いている。
というか、このアルベルト工房もその1つらしい。
本当に今フィールにいるハンターどもは、一体全体何をやらかしてんだよ。
「ハンターズマスターがクラフターズマスターに、ハンターの武具を無償で提供するように圧力をかけていたそうなんです。ですがクラフターズマスターとしても、到底受け入れられません。なのにハンターズマスターは、クラフターズマスターが武器を提供しないことを理由に、ハンターが狩りに出ないことを正当化してるんです。さらに今フィールにいるハンターは、武具店に押しかけては武器を奪っていくだけではなく、トレーダーズギルドからも食料やポーションなどを強奪する始末で、オーダーズギルドとも何度も衝突しています」
またハンターズマスターかよ。
そこまでしてるってことは、ハンターズギルドとアミスターの関係を悪化させたいんだろうが、一体何の目的でそんなことしてやがんだ?
クラフターズギルドってのは、鍛冶師とか工芸師とかの職人組合みたいなもんで、ヘリオスオーブで一番最初に設立されたギルドになる。
当初はスミスギルドといって、鍛冶とかが中心だったらしいが、武器にしても防具にしても生活に使う道具にしても、鍛冶師だけが作ってるわけじゃないってことで、徐々に他の職人も集まってきたため、クラフターズギルドと改名した経緯がある。
そのため裁縫師や彫金師、育成師、調理師なんかも含まれるそうだ。
そういったクラフターズギルドに登録してる職人の総称がクラフターなんだとか。
ハンターズランクもそうだが、ギルドのランクが鉱物名になっている理由は、最初に設立されたのが前身のスミスギルドだからだと聞いている。
「ハンターズマスターの目的についてはまた考えるとして、問題はハンターどもね。というか、ここまで来ると盗賊と同じだわ。全員しょっ引いて、拷問にでもかけた方がいいんじゃない?」
俺もプリムに賛成だな。
今フィールにいるハンターどもは、百害あって一利なしだ。
まだフィールに、ハンターがいなくなるリスクを負った方がいい気がする。
俺とプリムの2人だけじゃできることは少ないが、それでも今いるハンター崩れよりは役に立てると断言できるぞ。
「最終手段としては、それもやむを得ないと判断されています。ですが今のフィールは、オーダーがハンターに代わって依頼をこなすことが珍しくない状態ですから、オーダーズギルドとしても動くのが難しいんです。素材収集依頼や護衛依頼なら多少は融通を利かせてもらえますが、緊急依頼ともなると、どうしてもそちらを優先しなければいけませんから」
オーダーズギルドが依頼こなしてるのかよ。
オーダーが何人いるのか知らないが、ハンター崩れと人数的にはそう変わらないはずだ。
その上治安維持なんかも請け負ってるんだから、どう考えても人手が足りんだろ。
「それに、オーダーズギルドとハンターズギルドの戦力差も、大きな問題なんです」
ああ、なるほど。
ハンターズギルド、というかハンターズマスターを筆頭に、チンピラハンターどもは数も多いが、ハイクラスに進化してる輩も存在している。
ハンターズマスターを筆頭に、10人強はいたか。
対してオーダーズギルドは、オーダーズマスターのレックスさんとサブ・オーダーズマスターのローズマリーさん以外だと、5人ぐらいしかいないらしい。
レベルだけで見ればレックスさんより高いオーダーが1人いるそうだが、レベルは強さを表すわけじゃないし、仮に強さを表してたとしても、一つや二つぐらいならば大差はない。
しかもチンピラが相手だと、何をしでかすか想像ができないっていうのも問題だ。
街の人を人質に、ってのが最初に頭に浮かんだが、それぐらいは躊躇いなくやってくるだろうしな。
「明日はフリーの予定だったけど、少しぐらい依頼を受けといた方がいいかもしれないわね」
プリムも同じ考えか。
まあ、武器の試し切りに魔法の練習もあるから、適当に食材になる魔物でも狩ってみるか。
「ありがとうございます」
「礼を言われるようなことじゃないだろ。ハンターは魔物を狩ってこそ、ハンターなんだからな」
「そうよ。それよりミーナ、もう閉まっちゃってるけど、明日また来る?」
「いえ、呼んでみます。多分、みなさんいらっしゃるでしょうから」
そう言うとミーナは、店側ではなく、家側と思われるドアのノッカーを鳴らした。
なんでもあのノッカーは魔導具で、家の中ならどこでも音が聞こえるから来客が来てもすぐにわかるんだそうだ。
「はいよー、ってミーナさんか。こんな時間にどうしたんだよ?」
出てきたのは、俺より年上に見える男だった。
耳が尖ってるからエルフかと思ったが、肌はエルフ程白くはない。
ということはドワーフか。
ミーナより少し背が高いから、ドワーフにしちゃノッポになるんだろうか?
「こんばんは、エドワードさん。今日ってもうお店は閉めちゃってますよね?」
「客も来ねえしな。最近じゃ昼間に数時間開けるぐらいで、後はもっぱら、クラフターズギルドから依頼されたもんばっか作ってるよ。で、そいつらは?」
エドワードと呼ばれた男が、俺とプリムに気が付いた。
訝しげな視線を向けてきてやがるな。
「ヤマト・ミカミさんとプリムローズ・ハイドランシアさんと言って、お2人ともGランクのハンターです」
その目も、ミーナの紹介で大きく見開かれた。
「Gランク!?ちょっと待てよ!今フィールに、Gランクのハンターなんていなかったはずだぞ!?」
そうらしいな。
トップレイドって言われてるのがハンターズマスターについていった連中で、Sランクが7人、内5人がハイクラスに進化してるって聞いてる。
こいつらが、フィールじゃ一番レベルの高いハンターだな。
俺達が来るまでは、だが。
「俺達は今日、フィールに着いたばかりなんだよ」
「ああ、来たばっかなのか。って待てよ!外にゃ、グリーン・ファングがいるだろ!それぐらいなら他の町にも噂が広まっててもおかしくねえってのに、まさか知らなかったのか!?」
「そのグリーン・ファングなんですけど、お2人が退治してくださったんですよ。しかもブラック・フェンリルまで」
「はあっ!?」
顎外れても知らんぞ。
まあ、レックスさんもライナスのおっさんも領代の貴族もそうだったから、この反応は十分予想できた。
「エド、何を玄関で叫んで……おお、ミーナ嬢ちゃんか。今日はどうしたんじゃ?」
さすがに声がでかすぎたようで、家の奥から1人のドワーフが姿を見せた。
こっちはドワーフらしく背も低いし、髭もモジャモジャだな。
「こんばんは、リチャードさん。今日はこの方達の付き添いと、領代からの依頼について説明に来たんです」
「領代じゃと?」
「はい。ですけどそれを伝える前に、エドワードさんが固まってしまって……」
「仕方ない奴じゃな。とりあえず入ってくれ」
固まったままのエドワードを放置したまま、俺達はリチャードという名のドワーフに招かれて、家に入ることになった。
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