18.梅の季節に桜咲かせて 5
「えっ、いやいや、っていうかチョコをくれない選択肢があるんですか?」
「まあ選択肢としてはあったよ。弓子も“あんな近代商業主義に塗れたイベントは知らん”とか言ってたし。で、キミとしてはやはり一応欲しいのかい?」
「そりゃそうですよ!一応だなんてとんでもない!」
なにげなくした質問だったが、言われた不二は飛び掛からんばかりの勢いで身を乗り出してきた。
「そ、そうかい」
たじろぐ新田。
「そうですとも。だってまだ本命チョコ貰ったこと一回もないんですもん」
「ふーん?」
「律花先輩だって本命チョコ渡したことは一回もないでしょう?」
「失敬な言い草だな」
「あるんです?」
「ないよ」
「ほら」
「ぐぬぬ…まあともあれだ。キミがチョコを欲しいというのはわかった。一応心に留めておこう」
「あはは、よろしくお願いします。いやー律花先輩のチョコ楽しみだなー」
「さりげなさを装って露骨にハードルを上げていくのはやめるんだ。あげるだけなら去年だってあげただろう?」
「去年は貰ったっていうか、まあフタバでチョコブラウニー奢って貰いましたね。さすがに今年はもう少し雰囲気のある感じでお願いしたいですけど」
「ふむ。まあ要望があるなら聞くだけ聞いておこうじゃないか」
「手作りとか?」
「手作りといってもチョコなんて市販のものを溶かして固め直すだけだろう?もちろんやったことはないけれども」
「手作りならラッピングとかも自分でしますよね。そういう細かいところに気持ちが籠るんですよ」
「神は細部に宿るとは言うけれども」
こんなしょうもない神もなかなか、と言いかけて止めておく。
「あとは形とか?ハート形とか」
「急に細部じゃなくなったね」
「考えてみればまず土台をしっかりしなければ良いバレンタインチョコにはなりませんからね」
「その拘りと情熱はどこからくるんだ…」
「愛、ですかね」
ドヤ顔で答える不二と、赤面して溜息を吐く新田。
「そういうのはいいからっていうか内容だいぶ恥ずかしくないかい?」
「いいえ特には。あとは渡し方とかですかねー」
けろりと返す不二。
「なんて図太い…ともあれ一応話だけは聞いておいたよ。期待せずに当日を待ちたまえ」
「ええ、期待しちゃだめなんです?」
少しがっかりしたように問う不二に、新田は肩を竦めて自嘲気味に笑った。
「はは、まあなにぶん初めてのことだからね」
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