18.梅の季節に桜咲かせて 3
「心構えってなんだよ。チョコはチョコなんじゃねーか?」
「ええとだな。私たちは別に付き合ってるわけじゃないが、既に合意はとれているわけだろ」
「そーだな」
「ならば私は彼女のような顔でチョコを渡すべきなのか?あるいは改めて私からの告白というか意思表示の
病んだ目で頭を抱えぶつぶつと自問するように呟く新田。
「オマエもしかしていっつもそんなことばっか考えて生きてんのか?」
「そうだよ」
梯平は唐突に我に返ったように顔をあげて即答する新田に大きな溜息を吐いた。
「あーもうめんどくせーな。オマエはどうしたいんだよオマエは」
「どうって…私が?」
「そうだ。相手がどうとか正しさがどうとか、そもそも見当違いなんだよ。どうすべきかよりオマエはどうしたいのかが大事なんじゃねーのか?」
「ふぅむ…」
「だいたいこんな近代商業主義にまみれたイベントに格式ばった意義なんざこれっぽっちもねえよ。アタシが言うんだから間違いねえ」
「身も蓋もないな。そんなこと言っていいのか?」
「いいんだよ。だが敢えて近代商業主義に乗っかりたい子羊には一応答えを用意してる」
「それは?」
梯平は得意満面に立ち上がるとスカートを翻らせて黒板に向かい、勢いよくチョークを奔らせた。
“汝の成したいように為すがよい”
「おいなんか邪悪な神とかが言いそうなやつじゃないかそれ」
やや引いている新田に対してドヤ顔の梯平が続ける。
「先の“汝の成したい”はオマエの求める結果、後の“ように為すがよい”はそうなるように行えって意味だ。つまり求める結果を得られるかどうかよく考えて行動しろってこった」
「は、はあ」
梯平は新田の生返事に溜息を吐いて黒板を消すと元の椅子に戻って座り直す。
「オマエがチョコを渡そうと思うのはなんでだ?それを為すことでなにを成したい?その行動の動機と目的は?単に流行りに流されてやらなきゃって思ってるだけじゃねえか?」
「お前、もしかしていつもそんなことばかり考えて生きてるのか?」
「当然だろ」
微塵の迷いもない返事にたじろぐ新田。
「お、おう…じゃあ、ひとつ聞きたいのだけれども」
新田は笑って問う。不敵に、冷笑的に。
「お前の今の行動にはどんな動機と目的があるんだ?」
梯平は笑って答える。不遜を湛えて朗らかに。
「決まってんだろ。動機はアタシの自己満足で目的はオマエらの幸せだ」
新田はその言葉に一瞬虚を突かれたように目を丸くしてから大きく息を吐いて穏やかな笑みを浮かべた。
「そういえばそういうやつだったよ、お前は」
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