18.梅の季節に桜咲かせて

18.梅の季節に桜咲かせて 1

「よー律花、センターどうだった?」


 やや呆け気味に自席に座っていた文芸部の元部長、新田律花にったりつかはその声にゆっくり視線を向けると半笑いで肩をすくめた。


「どうにかってとこかな。まあ、あんまり良くは…なかったけど」


「どうせすなおのことが気になって集中できてねえんだろ」


 声の主、梯平弓子はしびらゆみこは新田の前の席に無遠慮に腰を下ろすと短いスカートを翻して鋭く足を組んだ。一瞬男子生徒の視線を集めるが本人は気に留める様子もない。

 かたや、ひとつ結びの三つ編みに規定通りの制服と靴下、紺のフルリムセルフレーム眼鏡の、文学少女という型から直接取り出したような姿。

 かたや、腰まで届く跳ね放題の金髪に猫のような大きな瞳と小麦に焼けた肌、制服で露出の限界に挑戦したかのような派手な姿。

 女子高生の双極を体現したようなふたりの組み合わせは知らなければ酷い違和感しかないだろうが、三年間見てきたクラスメイトにとってはもはや日常の光景だった。


「そ、そんなんじゃ」


「オマエさあ、自分で勉強理由に待ったかけといて自分で気が散ってりゃ世話ねえぞ」


「うるさいな、生徒会関係の事情もあるって説明したろ」


「どうせその場で答え出すのにビビッたんだろ」


「そんなことは…」


「いざとなりゃ真央まお陸郎りくろうに付くってわかってたよな?オマエ話でもなけりゃ絶対ぶっ込んでたろ」


「そう言われればまあ、そんな気もするけど」


 生徒会長の二階堂真央にかいどうまおも副会長の錦陸郎にしきりくろうも内申や教師への評判惜しさに他の生徒を見捨てるようなタイプではない。むしろこれ幸いとコトを荒立ててくる可能性のほうが高い。

 そして、そういう荒っぽい展開は以前の新田なら望むところだっただろうことは梯平の想像にかたくなかった。


「オマエほんっと昔から賢いアホの子なんだよな」


 あきれ顔で首を振る梯平に満足に反論できず歯噛みするしかない新田。


「ぐぬぬ…ほっといてくれ。そういう弓子こそ、どうだったんだ?」


「アタシか?」


 新田の放った苦し紛れの反撃に、梯平はきょとんとした顔で首を傾げた。

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