17.凩吹く日に持つべきものよ 12

 不二の膝から力が抜けてがくりと崩れ落ちた。

 世界のなにもかもが崩れていくような錯覚。

 ああもうだめだ。いっそ死にたい。


 その姿を困った顔で見下ろしていた新田が咳ばらいをひとつした。


「まあなんだ、もう少し私の話を聞いてくれないかな」


「うう…拝聴します」


 今さらなにを聞かされるのかと思いながらも新田の前でノロノロと正座する不二。


「とりあえず椅子に座りたまえよ」


「いえ、ここで結構です…」


 あまりにもしょぼくれた不二の姿に憐れみすら湧いてくる新田だったが、今は言っても無駄だろうと諦める。


「まず私はこう見えて受験生だ。ここやキミといるときにはしていないが家ではちゃんと受験勉強をしている。そして来月には大学入学共通テスト、いわゆるセンター試験が控えている身なわけだ」


「…はい」


 この有様で不二がちゃんと聞いているのかいまいち判断に迷うが、とにかく返事だけはしていることを確認して新田は続ける。


「それが終わったら翌月末には本番とも言える二次試験がある。それまではプライベートで学業以外に現を抜かしている余裕があまりないわけだ」


 新田がなにを言いたいのかわからずに不二が憔悴した表情で見上げると、そこにはまだ真っ赤なまま狼狽しつつもどうにか言葉を紡いでいる彼女の姿があった。


「それにほら、錦くんに大見得切ってしまった手前もあるしだな、部活動があるうちの交際は避けたいわけだよ」


「は、はあ」


「だから、その」


 縋るような目で見上げてくる不二の表情に一瞬声を詰まらせる。


「受験が終わればすぐに卒業だ。受験と部活両方が片付く区切りとしては良いタイミングなんじゃないかと思うんだ」


「ええと、つまり?」


「つまり、あの、だね」


 赤くなったままオロオロと視線を彷徨わせ、新田はどうにか言葉を絞り出した。


「今はダメだけれども、卒業したあとで良ければ、是非」

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