17.凩吹く日に持つべきものよ 11
文芸部室を静寂が支配する。
新田の顔は頬もひたいも耳までも真っ赤になっていた。不二も自分の顔が発熱をしているのかと思うほど紅潮しているのを感じていた。
ふたりともが汗ばむほどに緊張して次の言葉を探し、あるいはそれを待っている。
新田は口元に手を当てて難しい顔でなにか考えこんでいた。不二は返事がなかなか帰ってこないことにだんだんと不安を感じ始める。彼女が真っ赤になっているのは不慣れだから照れているだけでもしかして良い返事は貰えないんじゃないだろうか。
不二は今までの日々を思い返す。
春には桜を見て歩き、居眠りしてる彼女を眺めて過ごしたり、梅雨に入ればその長い髪を乾かし、父の日の話をしたりとか、あとはコーヒーを賭けてちょっとしたゲームをしたり、夏休み前にはこっそり置かれた冷蔵庫で冷やしたアイスをふたりでわけたり。
協力型のゲームを提案して連絡先を交換してからはプライベートでもお互いの存在があった。夏休みも後半には何度も会い、先輩の提案と助力あって四季報に小説を投稿したりもした。
秋になってからとはいえふたりでプールにもいった。そのあとの文化祭も充実していたと思う。これについては別の大きな問題が起きたけれども、それはそれだ。
そしてその出来事のあいだにも毎日のように文芸部室で、幾度となくカフェで、コーヒーの香りとともにふたりで一緒に過ごしてきた。
卒業しても連絡してきたらいいって夏のフタバで言ってくれたのは他でもない先輩だった。
今さら迷うな。彼女を、先輩を信じよう。
そうして一分近く、とはいえ体感ではかなりの沈黙のあと、新田が口を開いた。
それは今まで見たこともないような沈痛な面持ちだった。
「気持ちはとても嬉しいんだけれど、今キミとは付き合えない」
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