17.凩吹く日に持つべきものよ 10

 久しぶりにふたりだけの文芸部室だった。

 梯平のおかげで新田視点での事情はわかったが、それにしても沈黙が気まずい。なんとか以前のペースを作ろうと不二が言葉を捻りだす。


「…いやあ、あいかわらず嵐のようなひとですね」


 ひとり置いていかれて所在なさげに手をもじもじとさせていた新田だったが、その言葉に便乗して吹っ切ったように顔をあげるとドカッと自分の所定の席に腰を下ろして足を組んだ。


「あーもうやめやめ!」


 天井を仰ぎ目を閉じて、少し固い表情で仕切り直すように、自分に聞かせるように言い放つと、ようやく不二へと視線を向けて微笑んだ。


「いっつもあんな調子だよあいつは。今回も散々だった」


「やっぱり仲良いんじゃないですか」


「良くないよ」


 不二の言葉に首を振って肩を竦める。


「まあそれでも友達ではあるけどね。さて、とりあえず弓子の話は脇に退けておこう」


「はい」


 少し改まった空気に不二が居住まいを正す。


「とりあえず、錦くんが来たときの話は全部忘れて欲しいのだけれど」


「ええもちろん」


 にこやかに答える不二を見てほっと息を吐く新田。ふたりとも大きな変化など望んでいない。これからも静かに穏やかな日々を過ごしたいという気持ちは同じなのだ。


「なんて言うと思います?」


「だよね」


 そんなことはなかった。


 ふたりとも半笑いというか苦笑いというか、引きつり気味のなんとも微妙な笑みを浮かべて顔を見合わせている。

 不二は兄の助言を思い出していた。むしろもうここで自分から切り出すべきじゃないだろうか。梯平先輩が帰ったのも気を利かせてくれた…のかどうかはちょっと計り難いけれど、とにかくふたりきりなのは好都合だ。


「いい機会ですので、僕から先輩にとても大事なお話があるんですけれど」


 今までは現状を壊したくなくて意識することさえ極力避けてきた、その言葉を口にする覚悟を決めて新田を見つめる。


「ぴゃい」


 彼女の緊張しきった噛み気味の返事にちょっと笑いそうになるのを堪えつつ、彼は言った。


「新田先輩のことがずっと好きなんです。僕と付き合ってください」

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