17.凩吹く日に持つべきものよ 8
夕暮れも近くなったころ、ノックもなく文芸部室のドアが力いっぱい開け放たれた。すぱぁんっと景気のいい音と共に彼女が踏み込んでくる。
「おらー邪魔すんぜ
それは腰まで届く跳ね放題の、しかし透き通るような蜂蜜にも似た金髪と猫のような大きな瞳が髪と同じ色に輝く少女。
窓際の定位置で本を開いていた不二は顔をあげたところで目を丸くして硬直している。
「は、梯平先輩?どうしてこんなところに」
驚いて反応できない不二の前まで悠々やってきた彼女は腰に手を当てて胸を張るように仁王立ちになった。
「それはな、アタシらが女子だからだ!」
「ら?」
彼女の髪量と圧力の高い存在感で気付かなかったがよく見ると後ろに隠れるようにもうひとりいる。梯平の袖を指で摘まんで猫背気味に恐る恐るついてきましたといった風情のその人物は。
「先輩?」
「や、やあ」
新田だった。
かつての威容は何処へやら、体を小さくして気まずそうに上目遣いでこちらを見てくる彼女はまるで別人のようだ。なにかあったのだろうか、目の周りがほんのりと赤い。
「あのー、これはいったい」
「まあまて話はアタシが先だ、つーか普通にアタシ越しに会話を始めようとすんな。しばくぞ」
事態が理解できず困ったような笑みを浮かべて新田に話しかけようと立ちあがった不二の視界を梯平が塞ぐように立ちはだかる。
「え、あ、はい」
「だいたい、女子が友達連れて男んとこにきたらまずはソイツの話から聞くのが礼儀ってもんだろうが」
「ハツミミデスガ」
「お約束とも言うけどな。どっちみちオマエにはアタシの話を聞く以外の選択肢はねえ。大人しく素直になれ」
「わかりました、
「あっはっはっ!…おい、喋っていいか?」
「…はい、お願いします」
梯平の目付きと声のトーンが思いのほか重かったので不二は口をつぐまざるを得なかった。
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