17.凩吹く日に持つべきものよ 6
「おい律花」
期末試験も終わり冬休みも間近に迫ったころだった。
以前は授業が終わったら真っ先に文芸部室へ向かっていた新田が試験の少し前あたりから放課後のろのろと教室で過ごしそのまま帰宅していることに、彼女の旧友にして級友である
「なんだ弓子。金ならもう貸さないぞ」
他の生徒がばらばらと部活へ向かい帰路へと着くなかひとりぼやっと窓の外を眺めていた新田が振り返る。
「アタシがいつオマエから金借りたっつーんだよ」
「先週売店でお茶代貸しただろうが」
「細けーな神経質かよ。別に金借りたいわけじゃねえ」
「あれはそのうち返せよ?それでなんだい」
「なんで文芸部室に行かねえんだ?」
露骨なほどに飄々と対応していた新田の表情が険しくなった。
「…うちは幽霊部員可がウリなんだよ。私がそこに加わったところで別に何の問題もない」
「はあ?んなこと聞いてねーよ。だいたいずっと欠かさず通ってたのに今さらかよ」
「うるさいな。私は他人にプライベートを詮索されるのがなにより嫌いなんだ。放っておいてくれ」
あからさまに機嫌の悪い空気を醸しながらぷいっとそっぽを向く新田を見て梯平は大きく溜息を吐く。
「あのなあ…
信じられないという顔で新田が立ち上がった。
「彼は部活に来なくなったはずだ!なんでお前がそんなこと知って…いや、だとしても私には関係ない」
途中で我に返って顔を背ける新田に淡々と告げる。
「なに拗ねて行かなくなったのかは知らねーが、職員室でたまたま文芸部室の鍵がねえのに気付いてな。向かいの校舎から覗いたらアイツのツラが見えたんだよ」
新田は俯いて黙り込む。梯平は黙って上履きを脱いで裸足になり、足をぷらぷらとさせている。
少しの間を置いて、新田は自分のカバンを手に取った。
「私には関係ない。今日はもう帰る」
そう言って立ち去ろうとした新田の腹に、小麦色の華奢なつま先が勢いよく突き刺さった。
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