17.凩吹く日に持つべきものよ 5
「…まあ、そうかも」
「まったく。ふたりとも夏休みからまるで成長していない…」
呆れて天井を仰ぐ真。
「これ完全に自然消滅するやつじゃん。それか傷心のとこにほかの男がふわっと滑り込んできて横取りされるね」
直はぎょっとした顔でなにか言おうとするが言葉が出てこない。掬われた金魚のように口をぱくぱくさせてる彼の顔を眺めて真はにこーっと笑った。
無表情な、満面の笑みで。
「女の子ってのはねー、参ってるときに親身になってくれる男友達にビックリするくらいころっといくんだよねー。ボクもそれで初恋相手をやられた」
「え、初恋って鈴さんじゃないの!?」
幼い頃から入院したきりだった兄が、今の奥さんと結婚する前に誰かに恋してたなんて初耳だった。
「こう見えても恋多き男なのさ。って、そんなことはどうでも良くってさあ」
変わらぬ笑顔で続ける真。
「この件はスナくんから切り出して先輩さんと話すべきだよ。できなきゃそれで終わり。とりあえずせめて部室には行ったほうがいいと思うよ。ちなみにSNSでの話し合いはお勧めしないかなー。ミリでも齟齬があったらそこでthe end、なのだぜ?」
神妙な顔で黙りこくってしまった弟を見て、彼はコーヒーを飲み干して立ちあがる。
「まあ、ぶっちゃけ本音を言えばスナくんの恋路がどうなろうと知ったこっちゃないんだけどさー。お正月には鈴蘭ちゃんも一緒に来るし面白い話が聞けるよう期待してるね。それじゃ!」
わざとらしいほど朗らかに去っていく兄、真の背中を見送って直はひとり、大きな溜息を吐いた。
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