17.凩吹く日に持つべきものよ 4

「それで?スナくん尻尾を巻いてそれっきりってわけかい」


 居間のソファに並んで座っていた兄、まことがにこにこしながら言い放つ。


 すっかり落ち込んでしまい日の高いうちから真っ直ぐ帰宅するようになった弟の話をいったいどこから嗅ぎつけたのか、仕事先のカフェが定休日の夕方にふらりとやってきて開口一番「もしかして先輩に振られたのかな?」とぶっ込んだ彼は何事も無かったかのように一旦キッチンへ向かってふたり分のコーヒーを淹れたあと、露骨に顔を顰めたすなおの横に座り根掘り葉掘り話を聞き始めたのだった。


「尻尾を巻いてって…あれだけはっきり言われちゃ僕からはなにも言えないでしょ」


 拗ねたような目付きで兄を睨む直。


「話を聞いた限りじゃ完全に売り言葉に買い言葉だったよねそれ。スナくんと付き合いたくないかどうかとは全然関係ないんじゃないかなあ」


「そうは言っても、錦先輩が居なくなってからも先輩からはなにも言われてないし…」


「自分から聞いたのかい?」


「いや、それは…」


「っていうか実際付き合ってたわけでもなければ、告ったわけですらないよね」


「ぐ…」


「むしろこれ告白チャンスだったんじゃないかなー。『僕は先輩と付き合いたいんですけど!先輩はそんなに僕のこと嫌いですか!』とか勢いで言える流れだったんじゃない?」


「で、でも先輩だって僕の気持ちくらい知って…」


「当たり前じゃん」


 泣き言をざっくり切って落とす。


「だから彼女も気まずい顔してたんでしょ」


 真は自分で淹れたコーヒーを啜るとひとつ溜息を吐く。


「ちゃんと考えなよ。いくらふたりきりだからって、その先輩さんがスナくんと付き合いたいって言ってるも同然の訂正、自分から入れられると思うかい?」


「それは…」


「絶対無理でしょ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る