17.凩吹く日に持つべきものよ 3

 室内が静まり返っていた。


 錦が気まずそうに視線を逸らした。その視線の先では不二が半笑いで呆然としている。

 新田は、錦の視線が自分から逃げたのではなく不二へ向いたのだと察して、そして彼の前で自分が口にした言葉を反芻して…怒りで紅潮気味だった顔から緩やかに血の気が引いていくのを、他ならぬ本人が感じていた。


「あー、そのな。まあ、なんだ」


 静寂に耐えきれなくなった錦が口を開く。


「今のとこ校内新聞に掲載されていたような事実は本人が否定したってことで。報告しとくからな?」


 覚悟を決めて新田へと視線を戻すが、彼女からは先ほどの威勢の欠片も消え失せて俯いていた。


「ああ、よろしく頼むよ」


 視線を誰にも向けられず床を見つめたままの新田が答える。


「わかった。それじゃ俺はこれでな。えーっと、あのな。余計なお世話かも知れんが…仲良くしろよ?」


 それだけ言うと錦は足早に文芸部室を出て行った。

 あとに残された気まずい静寂のなか、ふたりはすぐには動けなかった。


「あの…」


 不二がのろりと動いてカバンを手に取る。


「今日はその…ちょっと用事を思い出したので、えっと…お先に失礼します」


 恐る恐る口にした彼を、新田は一瞥もしなかった。ただ彼女もまた漫然と椅子に座り直して本を手に取る。


「ああ、お疲れさま」


 独り言のように口にした新田に背を向けて静かに文芸部室を出ていく不二。

 残された彼女は下校時刻まで無言で本のページを捲っていた。



 その翌日から、不二は放課後に文芸部室へ来なくなった。



 それからもう数日して、新田は放課後に文芸部室へ行くのを止めた。

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