17.凩吹く日に持つべきものよ

17.凩吹く日に持つべきものよ 1

 文化祭が終わり、期末テストや冬休みへ向けて学校にひとときの静けさが戻ってきた。

 彼らにとっては変わらぬ静寂であったけれども、学校全体の空気はこんな校舎の端の端であっても伝わってくるものだ。

 文芸部に限れば、不二が書いた短編小説の掲載された秋の四季報が発行され他校生徒や教師たちの感想に一喜一憂するような出来事もあった。

 まあしかし概ねのところ、なにごともなく秋は深まっていくのだった。


 そんなある日の放課後。


 今日もまた新田と不二のふたりは文芸部室にたむろしていた。

 このところ新田はあまり話さなくなり、ずっと読書に明け暮れている。不二がそれとなく聞いてみても「読書の秋だからね」というばかりだ。

 確かに暇さえあれば本ばかり読んでいる先輩ではあるけれども、昨年は秋だからといってここまで没頭してはいなかった気がする。

 いったい彼女はどうしたのだろう。

 それとも、変わったのは彼女ではなく自分の認識なのだろうか。

 文化祭以来微妙な居心地の悪さを感じている。不二は不安だった。


 そんな収まりの悪い静寂のなか、突然乱暴にドアがノックされ、ほぼ間髪入れずに叩き付けるように開かれた。


「たのもーうっ!!」


 真っ赤な髪をガチガチに固めた逞しい長身の男。生徒会副会長のにしきだった。彼は窓際に座ってぽかんとしているふたりへずかずかと向かってくる。


「よう新田!あとええと、二年の不二だっけ。生徒会の錦だよろしくな!」


「あ、どうも」


 勢いに流されてあっけに取られたまま会釈する不二。しかし新田は露骨に眉を寄せる。


「演劇部改め生徒会の怪人がこんな隅っこになんのようだい?」


「いつも言ってっけどそれ自称じゃねえからな!?」


「わかってるからさっさと要件を言いたまえ。まさか文芸部に入りたいっていうんじゃないだろうね」


 新田の言い草に錦が苦笑を浮かべる。


「ふたりの間に割って入る日々なんて心躍るお誘いだが生憎生徒会活動が忙しいんだよなー。つっか今日はその話にきたんだけどな!」


「その?」


 新田と不二が顔を見合わせた。

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