16.文化祭レビュアーズ:後編 13
そのはずだった。
不意に、ぎしり、と、歯を軋ませる音。不二が視線を戻すと彼女が俯いたまま肩を震わせている。
「どうしました?先輩」
「見たまえ」
辛うじてそれだけ言って差し出された彼女のスマホを覗き込む。
『文化祭特番!絶賛話題&これから話題の今が旬カップル五組を新聞部が全力特集!!』
少し規模が大きいとはいえ、しかし言ってしまえばいつもの新聞部のノリだ。
「はあ、この特集がなにか?」
「よく写真を見るんだ」
「写真?はあ…あ…ああっ!?」
十数枚も掲載されているカップル写真の中には自分たち、つまり新田と不二も含まれていた。
焼きそばパンを食べているところ、プロレス同好会の観戦、演劇部の出し物を待ってふたりでパンフレットを覗き込んでいるところや、メイドカフェでの歓談に最後のダーツをしているところまでばっちり撮影されていた。
「やられた。ハメられたんだよ私たちは」
「どういうことなんです?」
「思い出してみたまえ、多聞さんはレビュアーは何人いると言っていた?」
『おふたりを含めて今のところ五組十人ですね』
「そしてレビューの条件は?」
『レビューを確保するため各組にペアで回るようにお願いしています』
「あ…」
「依頼した手前レビューも記事として使うけれども本命はこっち、最初からカップルをでっちあげてゴシップ記事を書こうって腹積もりだったってわけだ。ああもうっ!」
ショックでやや放心気味の不二とは対照的に、そして思いのほか新田は荒ぶっていた。こうなると自分の言動が結果としてこのような事態を招いてしまった不二は非常に気まずい。
かなり急接近しているとはいえ友達以上の仲かと言われればそうでもないのが現状だ。彼女の荒れようを見ているとこれまでの積み重ねが無駄になったような酷い無力感に苛まれる。
「いやあ僕なんかとあらぬ噂を立てられるのはやっぱり嫌ですよねえ」
弱ったように笑う不二。
だがその声を聞いた新田は突然ぴたりと口を閉ざし居住まいを正した。
奇妙な静寂。
「あー、そういうことじゃないからキミは気にしなくていい」
澄ました顔でそれだけ言うと、カバンから本を取り出して開く。
「えっと、それはどういう?」
「騙されたのが気に入らないっていうだけの話だよ」
「え、あ、はい」
淡々と答える彼女の手は、少し震えていた。
それから帰宅時間まで彼女が口を開くことはなく、不二もそれ以上話しかけられずにその日を過ごした。
時間にすればほんの一時間。
しかし、それは不二にとって文芸部に通うようになって以来最も息苦しい一時間だった。
翌日。
新田はなにもかも忘れたようにケロリとしていた。
そんな彼女を見て、不二は微かなわだかまりの残る胸をとりあえずは撫で下ろすのだった。
~つづく~
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