16.文化祭レビュアーズ:後編 3

『モンタギュー家の一人息子ロミオ。彼は遊び半分で忍び込んだキャピュレット家のパーティで彼女と出会います。そう、運命のひとジュリエットとの出会いを!』


 舞台中央でひとりライトを浴びるドレス姿の生徒会長。演劇は素人のはずだがずいぶんとサマになっている。


『出会ってしまったふたりはたちまち恋に落ち、密かに結婚式を挙げて既成事実を作ってしまおうと知人の修道僧ロレンスの元へと向かいます』


 シーンを切り替える為に舞台が暗転する。


「なんか、ふたりが恋に落ちるシーンだったのに肝心のロミオが出てきませんでしたね。友達とパーティに忍び込むシーンでも誰が誰だか…」


「ふぅむ…なんだろうね」


 幕があがり照明がつくと、そこにはジュリエットと、修道服を着込んだ生徒会副会長が立っていた。


『ロレンスの元へ訪れたジュリエット、しかしここに来て大変なことが起こってしまいました』


 ナレーションと共に舞台衣装に身を包んだ男女がぞろぞろと舞台へ上がってくる。


『なんということでしょう!ひとの口に戸は立てられない。どこからともなく結婚式の話を聞きつけた男女が我こそ正統なロミオなるぞとロレンスの庵へ駆けつけてしまったのです!』


「「いやそれはおかしいでしょ」」


 小声でふたりがハモった。


『ロレンスはそれぞれから入場料を取って並ばせると皆の前に並んで言いました』


「入るだけでお金を取るのか…」


「アコギ過ぎますね…」


 ロレンスが大仰に手を広げて告げる。


「よくぞ集ったロミオを目指す猛者たちよ!今から私の言う宝物のうちからひとつを手に入れてジュリエットに捧げるがよい!!さすれば私が責任を持って彼女との結婚式を挙げてしんぜようぞ!」


『こうしてロレンスから出されたお題は【ペンドラゴンの御鉢】【アヴァロンの玉の枝】【サラマンダーのかわごろも】【ファフニールの首の珠】【ヒポグリフの産んだムール貝】の五つでした。噂で聞くことすら稀な秘宝ばかりが並びます』


 舞台は暗転し、大道具がシーンを入れ替えている間にもナレーションは続く。


『宝物を求めるロミオたちの旅は過酷なものとなりました。ある者は財産が底を付き、またある者は病いに倒れ、ひとりまたひとりと数を減らしていきます。そして道のりもまたそれ以上に険しいものとなるのでした』


 幕が上がるとそこには谷を模した書割や足場、そして舞台の端から端までを繋ぐように平均台が置かれていた。

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