16.文化祭レビュアーズ:後編 2

 体育館の中は既に薄暗く、ぱらぱらとひとが入り始めていた。

 舞台から遠過ぎず近過ぎもしない適当な席を確保すると再びパンフレットを開いてふたりで覗き込む。


「ははあ、なるほどね。ここを見てみたまえ」


 肩が触れ合い新田の髪が不二の鼻先をくすぐる。想定外の接近で平静を保つのに必死になっている不二の様子にはまったく気付かずひとり納得顔の新田がパンフレットのキャストを指差した。


「ジュリエット役、二階堂にかいどう…って、生徒会長ですよね」


「そうだよ。ちなみに脚本書いてるにしきくんが副会長で元演劇部だ。おそらく生徒会と合同出し物なんだな」


「アリなんですかそんなの」


「さあ…ありなんじゃないかな実際目の前にあるんだし」


「それはそうですけど」


 生徒会は場を仕切る立場だろうに参加なんてしていて良いのだろうか。疑念の絶えない不二だったが新田はまったく気にした様子がない。


「それよりロミオ役、公募らしいよ」


「公募ですか。誰なんでしょうね」


「応募者は当日全員参加だそうだ」


「ええと、なにを言っているのかよくわからないんですけど」


「というか今まさにロミオを募っている。不二くんも参加してみたらどうだい?上手くすればあの美人生徒会長とキスシーンを演じられるかもしれないよ」


 新田の表情はライトの都合でよく見えない。


「いやですよ。月の無い夜に外を出歩けないような生活はまっぴらごめんです」


 生徒会長はミス高嶺の花と言ってもいい校内の有名人。その彼女とキスシーンなんて後々のリスクが高過ぎるし、なにより万が一そんな展開になろうものならきっと新田が怖い。

 冷静に考えると先輩に口出しされるような筋合いは無いし不条理なものを色々と感じるけれども、とにかく残り半年もない本年度の放課後を丸ごと危険に晒すような真似は不二にはできなかった。


「そうかい。面白そうだと思ったのだけれども」


 そういって顔をあげる新田の表情は相変わらずはっきりとは読み取れないが、その声色は思ったよりも軽いような気がした。


「まあもう開演のようだし、どのみち時間切れだったかな」


 会場の明かりが落とされ舞台が始まった。

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