15.文化祭レビュアーズ:前編 10
たゆん。…。
崩れたリズムに見入っていた誰もが我に返った。
リング上にいる小柄な方、赤コーナーに立っているアオイが手に取ったピコピコハンマーを瞬時に繰り出さず、大きく溜めを作って振りかぶった瞬間を見た。
そして同時に青コーナーに立っていたクリスが目を見張って重心を落とし歯を食いしばる姿も。
ピッパァンッ!!
この場にいる誰もが生まれて初めての光景を目にしていた。
叩いた衝撃に負けてピコピコハンマーが弾けるところなど誰も見たことがないだろう。
「実況さーん、ピコハン壊れちゃったヨー!」
アオイの軽快な物言いとは裏腹に会場は静まり返っていた。
そんな状況で空気を読まずにいそいそと実況の背が高いほう、諏訪が替えのピコピコハンマーを持っていって机に置いて席へと戻る。
「なあ不二くん」
「なんでしょう先輩」
「キミのともだち、笑ってなかったか?」
ほとんどの観客がリング上のふたりを注視している中で恐らくは新田だけが気付いていた。実況の諏訪がリングを降り際、不敵な笑みを浮かべたのを。
「え、ほんとですか。あーでも、あー」
「なんだい、勿体ぶらずに言いたまえ」
「諏訪のやつクリスさんとは小学校からの付き合いらしくてですね。なので、まあその、もしかするとあいつの思惑通りなのかなと」
「ふむ?」
全然わからないが、リング上では試合が再開されていた。
「「叩いて、被って、じゃんけんぽんっ!!」」
またしてもアオイの勝ち、ピコピコハンマーを手に取る。
となれば当然負けたクリスはヘルメットを取るのだが。
彼女はヘルメットを指先に引っ掛けて
たゆゴピガァンッ!!
様々な擬音と音が組み合わさってアオイがコーナーポストまで転がって行った。間一髪ヘルメットと顔の間にピコピコハンマーを差し込んで直撃は避けたようだが、この場でそれを見切れたものはほとんど居ない。
何事もなかったかのようにコロコロ転がって元の位置に戻るとピコピコハンマーを机に置くアオイ。
「攻撃は最大の防御ってなあ」
そう
「ワタシもそう思うヨー」
そう返して笑うアオイ。
会場が、これまでにない緊張感に包まれる。もはや誰もが波乱の気配を感じていた。
「「叩いて、被って、じゃんけんぽんっ!!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます