15.文化祭レビュアーズ:前編 9

 ブーイングなど気にも留めずにリング中央で机を挟んで睨み合うふたり。

 好き勝手に騒いでいたギャラリーもいつの間にか静まり、気付けば誰もが彼女らを注視していた。

 驚くほどの静寂。

 そして新田は気付いてしまった。その理由に。


「…胸、か」


 ふたりは胸を張って睨み合っているが、両者ともメロンやらスイカやらと呼ばれるレベルのモノがはち切れんばかりに主張している。身長差はあれどそちらは甲乙つけがたい、まさに互角の前哨戦。

 このある意味でスーパーヘビー級の両者が争うときを、誰もが今か今かと心待ちにしているのだ。

 新田がじとりとした視線を不二へと向けた。


「まあ、なんだ。不二くんもオトコノコだからねえ」


 ぎょっとした表情で隣を見る不二。


「ぼ、僕が選んだわけじゃないですよねこの出し物」


 さすがに焦って反論するが新田は「ああうんそうだね」と生返事を返すばかりだ。

 これは嫉妬なのか?それとも単に巨乳は地雷だった?不二が困惑している間にもゴングが鳴り響いて試合は開始された。


「「叩いて、被って、じゃんけんぽんっ!!」」


 たゆん。ピコン。


 豊かに過ぎるよっつのふくらみが揺れ、ピコピコハンマーの軽快な音が響く。

 ふたりとも腕自慢でならすだけのことはあり、じゃんけんに勝っても負けても動きに淀みがない。迷わず軽やかにハンマーとメットを取っては叩き守りを繰り返す。


「「叩いて、被って、じゃんけんぽんっ!!」」


 たゆん。ピコン。


「「叩いて、被って、じゃんけんぽんっ!!」」


 たゆん。ピコン。


 たゆん。ピコン。


 たゆん。ピコン。


 たゆん。ピコン。


 気付けば誰もがリング上のふたりが奏でる流麗で軽快な、攻守が入れ替わろうと微塵もブレない最速のリズムに巻き込まれ、ただただゆれる二組の双丘を注視していた。


 だからこそ、その会場にいる誰もが気付いた。そのリズムが崩れる瞬間に。

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