15.文化祭レビュアーズ:前編 8

『あっおコォナァー!天下御免の万年帰宅部!なみいるクレーマーを拳ひとつで黙らせてきた駅前商店街の覇者!!創作玄米パンのベーカリー玄米屋から“地獄の看板娘”がやってきた!クリィス・タカドノォ!!』


 コールに合わせて新田よりはやや長身と思しき少女がリングサイドに駆け込んできて一気に飛び上がった。

 チェックの水色ワンピースに三角巾とエプロン、両手にトングとトレイを持ったその姿はまさに看板娘だ。が。


「っしゃあああっ!!」


 トングを空へ突き上げて雄叫びをあげる姿はさながらアマゾネス。


「ってなんでアタシが青コーナーだ、ナメてんのかおらぁ!!」


 彼女は両手のトングとトレイをそれぞれ実況のふたりへ投げつける。実況席のふたりが直撃を受けて仰け反る姿に会場が笑いに包まれる。


「今の、彼ら避けなかったな」


「プロレス同好会ですからねえ。凶器は受けてナンボなんじゃないですか」


「なるほど」


 新田の疑問に不二が答えている間にも実況のコールが続けられる。


『いてて…対しましてぇ、あっかコォナァー!取ったら折るを実践して柔道部クビ!同じく転部先の空手部でもクビ!少林拳テコンドー太極拳の各同好会から入部拒否されたスポーツ特待生の風雲児ぃ!!入部先と対戦相手は年中無休で募集中!!両親にしこたま怒られた“黒旋風”!アオイ・ムコォォオだぁ!!』


 対角線上からリングインしたのはぴっちりフィットしたシャツにスパッツ姿の小柄な少女だ。するりとロープを潜ってコーナーポストを駆け上がると拳を突き上げてアピールする。


「イェアー!!」


 先の対戦相手に比べると圧倒的に愛嬌のあるその表情が差を分けるのだろうか、歓声がさらに多い。しかし新田と不二は深刻な面持ちだ。


「コールを真に受けるなら傷害では」


「傷害ですね」


「この対戦カード血を見るのでは」


「もしかすると僕たちは、大変なものを目撃しようとしているのかも知れません」


「いやほんとに大変なことになるのでは」


 ヤバいのでは?ふたりが静かに不安に慄いていると数人のプロレス同好会員が小道具を持ってリングへあがりなにやらセッティングを始めた。


『なおガチンコファイトは誠に遺憾ながら生徒会から許可が下りませんでしたので、代行案としておふたりには別の方法で雌雄を決していただきます!!』


 リング中央でにらみ合うふたりの間に机とピコピコハンマーとヘルメットが置かれた。


『そう、この“叩いて被ってじゃんけんぽん”でっ!!』


 残念にして当然ながら会場はブーイングに包まれた。

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