15.文化祭レビュアーズ:前編 7

「しっとりかつふんわり食感の玄米コッペパンと上質のラードで炒められた濃厚ソースたっぷりの噛み応えある極太焼きそば。パンの甘みと濃厚ソースが、柔らか食感と確かな噛み応えが複雑に折り重なり互いを高め合っている。そしてバターとマヨネーズが繋ぎになることで複雑な味わいに一体感が生まれ、濃厚になり過ぎた味を引き締める七味の存在がこの一品を“完成”へと導く画竜点睛のひと振りとなっているのです!ああ、この味はまさに奇跡…文化祭に降り立つ一日限りの至福の夢…」


「いや、私にはぶっちゃけクドいのだけれど…まあでもこの紙の包みは良かったな。焼きそばパンはどうも分解しがちで食べにくいからね。しかしこれ、ひとつ食べ切ろうと思うと胃にくるな…女子にはちょっとキツい…」


 温度差が酷い。


 午後イチで始まるプロレス同好会の出し物の席を押さえて焼きそばパンを食べるふたり。

 グランドの一角に建てられた屋外リングの周りには折りたたみ椅子が所狭しと並んでいて、ふたりはなんとか席を見つけたが多くの観客が立ち見状態で開始を待っている。

 つまりそれだけ前評判が良いということでもある。


 なおタイトルは“空前絶後!一年最強女子決定戦”だ。


「プロレス同好会に一年女子がいるって話は聞いたことがないけどね。その辺どうなんだろう」


「なんでもこの日のために帰宅部からスカウトしてきたとか言ってましたよ」


「知り合いがいるのかい?」


「まあ知り合いっていうかクラスメイトって程度なんですけどね」


 スピーカーから高めの男の声が響いた。


『さーて本日はプロレス同好会の興業にお越しいただき誠にありがとうございます!これより“空前絶後!一年最強女子決定戦”を開催致します!!実況はプロレス同好会最強の“善玉”ベビーフェイスタッグ、れんあるでお送りしまぁす!!』


 視線を巡らせるとリングサイドの一角に長机が設置され、ふたりの男子生徒が座っている。


「背の高いほうがクラスメイトの諏訪すわ れんです。ちなみに“善玉”ベビーフェイスはそこのふたりしかいないそうで」


「なるほど」


 他に比較対象がいないのだから最強と言っても必ずしも偽りではないだろう。

 新田がそんな失礼なことを考えているうちにも司会は進んでいく。


『それでは選手入場でーす!!』

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