15.文化祭レビュアーズ:前編 6

「こいつが売り子してる時間帯だから嫌だったんだよ」


 梯平は悪態をつく新田の言葉などまるで意に介していないかのように、満面の笑みを浮かべた口元はそのままに目だけできょろんと不二を見る。


「ははぁん、ソイツが噂のオマエのか。まあ誰でも構わねえがクラスの売り上げのためにたっぷり落としてけよな!ふたりだし大コッペ肉イカ麺増し七味マヨふたつくらいイケんだろ?」


「いきなりフルトッピングふたつ買わせようとするんじゃない」


「いちいちこまけーな神経質かよ。食い切れなけりゃソイツにでも食ってもらやいいだろ。ええと…」


「あ、二年の不二ふじ すなおです。どうも」


 梯平はぺこりと会釈する不二にひょいと近寄りいきなり肩を組んで顔を近付ける。


「おうおうよろしく頼むぜ。じゃあ直、律花がもし食い残したらあとはオマエだけが頼りだ。いけるよな?」


「え、ちょ、ま」


弓子ゆみこお前いい加減にしろよ」


 狼狽える不二にまさにゼロ距離で馴れ馴れしく迫る梯平に対して、新田が露骨に嫌そうな視線を向けて声を荒げる。


「ンだようっせーなー。とにかくふたつな!少しマケてやっからちっと待ってろよ!」


 梯平は口ぶりのわりに気を悪くした様子もなく素直に離れるとくるくる踊るように屋台へ駆け戻っていった。

 その姿を見送って、残された新田と不二が同時に溜め息を吐く。


「遠目に見てなんとなくは知ってましたけど、凄いですね梯平先輩」


「すまないね不二くん。なんとなくこうなる予感がしてたんだよ…あいつ誰にでも馴れ馴れしいというか図々しいというか」


「いえ、大丈夫です。その…柔らかくて凄くいい匂いでした…」


 うっとりと口にした不二のすきっ腹に入ったのは焼きそばパンより先に新田の鋭いボディブローだった。

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