14.1 逢瀬終われど穏やかならず 3
顔を殴られるときには既に鍵を握っていたのだろう。不二がいかに非力でも鍵で受けたなら殴ったほうが怪我をするに決まっている。
ビーチサンダルの裏面は最初から気にもしていなかったし、加えて狭い空間で密着距離。足が踏まれるのを避けることはできない。
先に踏まれた男の足はガラス片で足の甲と指先に大量の切り傷が刻まれ、爪が剥がれかけている。額の出血もロッカーの鍵で…顔をあげたその口に無理やり鍵が捻じ込まれる。
「んぐぉっ!?」
間髪入れずに顎を膝で蹴りあげられ、嚙むように捻じ込まれていた鍵が歯を削り歯の根を歪ませた。声にならない悲鳴をあげて顔を押さえたまま動けなくなる。
「いやあ、この見た目だから喧嘩弱いって思われがちなんですよねえ」
先に足を踏みにじられて動けなくなっていた男は見た。
ヒョロガキとナメていた少年の顔に笑みが浮かんでいるのを。
無表情な、満面の笑みを。
「でも喧嘩に強いってどういうことだと思います?」
既に酷い傷を負っている足を、そこを押さえる手ごと再び踏みつける。体重を乗せられガラスがじわじわと食い込んでいく。
「お、おい、やめ…」
「体格?腕力?根性かな。格闘技をやってるとかも強そうですよね。実際広いところでよーいドンで殴り合いになったら僕なんか手も足も出なかったでしょうし」
不二が屈みこんでいる男を覗き込むとそれだけ足に体重がかかるが、ガラス片が食い込んでいて身動きが取れない。
「でも喧嘩はそうじゃないんですよねえ。まあ結果見ればわかりますよね」
楽しそうに言って男の耳を指でつまむとグイっと引っ張って顔を近付ける。
「これ以上僕や先輩に関わってきたら、次は僕も友達を呼びますので。いいですね?」
「わ、わかった…」
その返事に不二は笑顔で耳から手を放す。
男の緊張が解けてほっと息を吐いた刹那、手を踏んでいた足に体重を乗せて全力で踏みにじった。
「ぎゃああっがっ、あっ、ぐあっ…」
ガラス片が肉を抉り骨と筋を傷付ける痛みに悶える男を満足そうに見下ろして囁く。
「ちなみに僕は、喧嘩の強さは“残酷さ”だと思います。あはは、勉強になりましたか?それじゃ二度と会いませんように。お互いのためにも」
うずくまった男たちを置いてシャワー室を出て時計を見る。もうずいぶんと時間が経っていた。さすがの先輩もそろそろ表で待っているかもしれない。
涼しくなったとはいえまだまだ暑い。外で長く待たせて機嫌を悪くされるかもと思うと気が気でなくなる。
「あーやだやだ。こんなとこでコソコソ勝ってもなーんにもいいことないんだよねえ」
どうせなら先輩の目に付くところで胸を張って勝ちたいんだけど。
そう心の中でボヤく不二だった。
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