14.1 逢瀬終われど穏やかならず 2
「ぐええ…」
片割れが呻く不二の髪を鷲掴みにして無理やり引きあげる。
「まずお前、それから女な。どうせ表で待ち合わせてんだろ?」
「ちょ、痛いですって。やめましょうよこんな…絶対ロクなことになりませんよ」
「るっせえな」
凄む男に涙目で訴える不二だが、当然聞き入れられるはずもない。不二の腹に膝蹴りを入れてからもう一度顔をあげさせる。
「ずいぶん余裕あるじゃねえか。お前さあ、これから自分がどんな目に合うかちゃんと理解してるかー?」
顔に狙いを定めて拳を振りあげる男に対していやいやするように頭を横に振る。
「ちょっと、顔は拙いですってば、ほんとに…」
「るっせえっつってんだよっ!」
振り下ろされた拳に腕をあげて顔をカバーするが腕力に差があり過ぎる。男の拳と自分の顔の間に差し込んだ小さな拳ごと押し込まれ、壁に後頭部をぶつける鈍い音がした。
不二を殴った男が髪から手を離し、そのまま殴った方の拳を押さえるように背を丸める。
後ろでにやにやと見ていた男が首を傾げた。
「お、どうしたよ。下手な殴り方して拳傷めたか?へったくそだな」
「ちが…この、ガキ…ぎゃっ!?あがっ!!」
不二を殴った男が悲鳴を上げて屈み込んだ。慌てて覗き込むと不二の足がビーチサンダルで男の足先を踏みにじっているのが見える。
シャワー室のタイルにじわりと広がっていく赤い液体。
血だ。そう気付いたときには既に遅く、額に鈍い痛みを感じた。
どろりとした感触が顔を伝い目に入って視界を奪う。
「うわっ、なんだこれっ、くそっ」
錯乱気味に顔を拭う男の足にも不二のビーチサンダルが押しあてられる。
ぷちぷちと皮膚を貫く鋭い痛みが走り無意識に短い悲鳴をあげた。
「あー、動くとズタズタですから気を付けたほうがいいですよ。あなたたちのお友達が割ったビール瓶の破片がいっぱい刺さってますので」
その気軽な言いざまに、背筋に冷たいものが流れるのを感じる。
ようやく視界が戻ってきて最初に見たのは血みどろになった自分の両手。そして不二が逆手に握っているロッカーの鍵だった。
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