14.1 逢瀬終われど穏やかならず 1

 警備員の詰め所で事情聴取を受けた新田と不二は、陽も傾き始めているし今日はそろそろ帰ろうという話にして更衣室の前で別れた。

 あのふたりについては全て運営側に任せることになったので彼らがこれからどうなるのかは知る由もないが、まあ警察沙汰にならないにしても二度と会うことはないだろう。


 先輩はあの髪を乾かすのに相当時間がかかるだろうからすぐには出てこないだろう。不二は着替える前にスマホを取り出してのんびりアプリゲーの行動値を消費して時間を潰してからシャワーへ向かう。


 防水カーテンで仕切られた少し広めの個室が並ぶシャワー室ブロックの空きを探してぽてぽてと歩いていく。

 とはいえまだ帰るには少し早い時間だからだろうか、ほとんど空きばかりで選び放題だ。まあ、何処でも同じなんだけど。

 そんな気持ちでふわっと歩いていたので横からの衝撃に成す術もなくよろめいてシャワーの個室へと飛び込むハメになった。


 ロッカーの影から突然だれかに蹴り飛ばされたのだ、そう気付くまで僅か数秒。不二が立ち上がるのとふたりの男が押し入ってきてカーテンを閉めるのがほぼ同時だった。


 狼藉者に見覚えはない。ないが、雰囲気でわかる。


「よおヒョロガキ、ツレがお前の女に世話んなったなあ。ああ?」


 つまり警備員に連行された二人組は実は四人組だったということらしい。不二の想像通りだった。


「俺らナメといて無事におうちまで帰れると思ってんじゃねえぞオラっ」


 いくら広めと言っても三人で入るようなスペースではない。身をかわす空間もなくボディブローを受けた不二が呻き声を漏らしながらくの字に曲がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る