8.勝負にならない負け上手.R 5
「もー先輩ってばなんでそんなに機嫌悪いんです?いいじゃないですか勝ったんだし」
カフェチェーン店フタバのカウンターに並んでふたり。不二の前にはいつもの通常サイズのアイスコーヒー、新田の前には不二の奢りで大サイズのホットコーヒーと季節限定のライチコンポートタルトが置かれている。
しかし学校から向こうずっと新田はご機嫌斜めだった。今もなにか感情を押し殺しているかのように無表情で口数も少ない。
「釈然としない」
「一品は一品とか言ってタルトの20倍する一番高いコーヒープレス買おうとしたのを断ったことですか?さすがにあれはちょっと…」
「いやそうじゃなくてだね…ああもう」
なにか言おうとして、自分の口を塞ぐようにタルトを食べる。
「よくわかりませんけど、結構いい暇つぶしになりますしそのうちまたやりましょう」
「もうやだ」
「ええ…せっかく楽しくなってきたのに」
新田はその言葉に手を止めて、じとりと不二を見る。
「ほぼほぼ負け通しなのにかい」
「まあ、勝てないなら勝てないなりに?」
「やっぱりやだ」
自分から言っておいてなんだけれども、単に勝ち負けの問題ではなかった。
そういうものとは関係ない次元で手玉に取られている感というか、思いもよらぬ眠れる怪物を起こしてしまったような気がするのだ。
これ以上彼と勝負事をするとどうなってしまうのか不安だった。
そんな彼女の気持ちなどまったく気付かない様子でアイスコーヒーをずるずるすすっていた不二は、はたとなにかに気付いてストローを口から離す。
「そうだ、それなら協力してやるようなゲームはどうです?賭けごとなんて不健全ですし風紀委員や先生に知られたらなにを言われるか。今の時代やっぱり協力プレイですよ」
「協力プレイ?」
「そうです協力プレイ」
「そうだね、そういうのなら…」
正直に言えばあまり関心のないジャンルだったが、とりあえずこの話題を終わらせたい気持ちが強い。
「それじゃいくつか流行りのヤツを選んで相談しますから連絡先教えて貰えます?」
「連絡先?」
「スマホ使うゲームもありますし連絡先あるとそこそこ便利ですよ。この前も大きい本屋ではぐれて見つけられなくて大変だったじゃないですか」
「そういえばそんなこともあったっけ」
「ありましたよ」
言われてみると確かにあのときは大変だったかな。
けれども普段から家族との電話とネットを見る以外SNSすらしていない新田には他人と連絡先を交換するという発想が出てこなかった。
不二はあのときから思っていたのだろうか。
「わかったよ」
諦めたように肩を竦めてスマホを取り出す。
「今日はキミにいいようにやられっぱなしだな」
「なにがです?」
「なんでもないよ」
不思議そうにする不二を見て困ったような笑みを浮かべて小さく呟く。
「まったくとんだ負け上手だよ」
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