8.勝負にならない負け上手.R 4
「はああっ!?」
目を見開いて叫んだ彼女に向けて彼はにこーっと笑みを浮かべる。無表情な、満面の笑みを。
「キミ今なんでも答えるって自分で言ったばかりだろう!?」
「ええまあ言いましたけど別に降参しないとは言ってないですし」
なにか問題でも?と言わんばかりに不思議そうな顔を作ってみせる。
「というかなんで出題者のほうが降参するんだい!」
「【降参した場合はその場で終了】ってだけで【誰が】までは取り決めにないですよね。降参の条件なんてのもないですから僕がなんの意味もなく降参したとしてもルールには反してないですよね」
ない。あるわけがない。ルール的に考えて出題者が降参することにはなんの意味もないのだから、それをわざわざ禁じるルールなんか事前に決めるわけがない。
「し、しかしだな」
食い下がったところで翻意を促せる案があるわけでもない。
勝っているのに。
というか放っておけば勝てるのに。
私はなんでこんな釈然としない気持ちで疲弊しているんだ。
それ以上言葉が出なくなって視線を落とす新田。その彼女に不二が優しく声をかける。
「あはは、もう先輩はほんとに仕方ないですね。わかりました、降参も取り下げますよ。さあなんでも聞いてください」
その言葉にはっと顔を上げて合った目は。
笑っていた。
この上なく無表情に。
満面の笑みで。
「ちなみにあと5秒ですよ」
ここで関係ないことを聞けば次の質問をする時間はなく自分の負けが決まる。完全に優位に進めていたのに気が付けば追い詰められていた。
ちょっとした意趣返しをしてやろうなんて思っていた3分前の自分を罵倒したい気持ちでいっぱいだった。
「4、3、2、1…」
なにかが折れた気がした。
「答えは歴史小説だから…」
残り1秒、どうにか振り絞るように声をだす。
「…史実を元にした物語だから、誰もが登場人物を知っているし、大まかな筋書きも、物語の結末も知っている…そうだね?」
「んーさすが先輩。Yesです。さすがだなあ」
負けたにも拘わらず楽しそうに答える不二の顔をすぐに見る気力は、彼女には残されていなかった。
そんな様子を見て、彼は薄笑いで肩を竦める。
「あーあ、また勝てなかった」
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