2.その眼鏡獰猛につき 7

「その後僕は口裏合わせに付き合わされてどさくさで入部届も書かされて今に至る、というのが去年のクラブ紹介でしたね」


 フタバのテラス席でランチのサンドイッチを摘みながら懐かしそうに思い出話を語る不二と、涼しげというよりは生ぬるい表情の新田。


「よくそこまで細かく覚えているね。感心するよ」


「そりゃ今でも忘れませんよ、トラウマです。そうそう、そのあとフタバに割れたマグカップの替えを買いに行くのも付き合わされました。そういえばここのフタバ初めて来たのあの時でした」


「へえ、まあ駅からは少し外れてるしねえ。その件はコーヒー奢ってあげたしチャラでもいいんじゃないかな」


「覚えてるじゃないですか」


「あんなひとけのないところでガラの悪い男子生徒に囲まれて乱暴されそうになったり物陰から様子を伺っているだけでまったく助けてくれない後輩がいたりしたからね、トラウマだよ」


「絶対ウソだ」


 不満そうに突っ込む不二に対して新田は意地の悪そうな笑みを浮かべて反論するが、取り付く島も無い断言を受けては肩を竦めるしかない。


「辛辣だなぁ。まあいい話を戻そう。それだけ詳細に覚えていれば簡単だろう?部活紹介」


「ほんとに僕がやるんですかぁ?」


「去年の私と同じようにやればいいだけだよ」


「あんないきなり後輩シメにいくようなの真似できませんって」


「そこじゃなく。まったく仕方ないな…後藤くんにでもやらせてみようかな」


「後藤って誰です?」


「まさに今の話の主人公であったところの金髪くんの名前だが」


「え、主人公は僕だったでしょう!?っていうか彼後藤っていうんですか。先輩なんで知ってるんです?実はあの後お礼参りしたとか?」


「しないよ。私のことをなんだと思ってるんだキミは」


「悪魔」


 新田は閃光の手捌きでスティックシュガーの封をふたつ同時に切ると無言で不二のアイスコーヒーに注いだ。

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