2.その眼鏡獰猛につき 4

 突然のことに誰もが、隠れて見ていた不二までもが凍り付く。


 ただひとりその空気を支配している彼女は椅子に反り返って三人を見下すように見上げ、追い打ちをかけるように手にしていたマグカップを窓の外に投げ捨てた。

 一拍置いてマグカップが砕ける音と再び悲鳴。声を上げるでも殴りかかって来るでもなければ詫びを入れてくるでもない。想定外の行動に三人の頭のなかが真っ白になった。

 さらに数拍の間。外がざわつき始めたことでようやく我に返った金髪が悲鳴のような怒鳴り声を上げた。


「お、お、おまっ!なにやってんだ!?下のヤツが怪我でもしたらどうすんだよ!」


 対して澄ました顔の新田がゆったりとした動作で机に片肘をのせて頬杖をつく。


「もちろんキミたちの所為にする」


 どこまでも穏やかで、自信に満ちて、そして微塵の悪気もない声で言い切った。 あまりに傍若無人な言葉に口をぱくぱくさせている三人の男子生徒を上目遣いに見る。


「キミたちはクラブ紹介で恥をかかされたことを根に持ってこの部室に押し入り私に乱暴を働こうとした。そして抵抗する私に激昂して窓ガラスを割ってしまい、さらにマグカップを投げつけて階下へ落とした」


「な、なにフザケたこと言って…」


 馬鹿げた狂言だ。

 しかし、ならば何故ここにいるのかと言われれば今彼女が言った筋書き通りにほかならず、こんなところを目撃されてしまったら?自分たちに勝ち目などあろうはずもない。

 そしてなによりこの僅かな間に、この先輩ならそれくらいの狂言は平気でやりかねないという恐怖が三人の心の中に生まれていた。


「さて」


 新田は自分が作り出した重苦しい空気を我が物顔で仕切る。


「話を戻すけれど、私を恥ずかしい目にあわせたいというのであればすぐにでも行動することをお勧めするよ。今の騒ぎを聞き付けて先生方がここに駆けつけるまであと三分とあるまい。ただし可能な限り優しく丁寧に扱ってくれたまえ、でないと」


 空いた手で窓枠に残っているガラス片を摘んで引き抜くと、三人に見せびらかすように目の前で弄ぶ。


「万が一ガラス片で傷でも負ってしまったらイジメやケンカでは済まされないからね。そうしたらこれは…もう傷害事件だ」

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