2.その眼鏡獰猛につき 3

 思わず声を出しそうになるのを堪えて息を殺す。机を蹴った男子生徒には見覚えがあった。部活紹介で新田に注意されていた金髪だ。他にもふたり男子生徒を従えているがそちらには見覚えが無い。親しげなところを見ると中学時代の連れかなにかだろうか。

 その三人に囲まれ、窓際の椅子に足を組んで座っているのは文芸部の紹介をした文学少女然とした女子生徒、新田だ。

 他に部員らしき人影は無いのだが、ひとけの無い部室でガラの悪い男子生徒に囲まれて怯えた様子も無い。それどころか壇上にいたときと同様に薄笑みを浮かべていた。

 不敵で、冷笑的な。


「なるほど。それで?男の面子が立たないと私をシメに来た、みたいな話なのかな」


 いっそ穏やかと言ってもいいその口調にあからさまな苛立ちの表情を見せた金髪だったが、ぐっと堪えて引きつり気味の笑みを浮かべる。


「わかってんじゃねぇか。アンタには恥かかされたからなぁ、アンタにもたっぷり恥ずかしい思いをして貰わないと釣り合いが取れねぇだろ?」


 その言葉に含まれた意味に金髪の取り巻きふたりが下卑た笑いを浮かべるが、当の本人にはあまり効いた様子がない。


「ほうほう、なかなか女子に効きそうな男の子らしい台詞じゃないか。びっくりするほどありきたりだけれど、そのぶんこれからキミたちが私になにをしようというのか誰にでも容易に想像できる」


「そこまでわかってんなら、あんまナメた口利いてんじゃねぇぞセンパイよぉ」


「いいんだよ、わかりやすさは大事だからね」


「てめぇいい加減にっ」


 脅しに怯むどころか馬鹿にしたように解説を付けるその態度にカッとなった金髪が動くより早く、新田の手が机の上に置いてあったマグカップを無造作に掴んだ。

 薄笑いで金髪を見上げたままスナップを利かせて自分の背後にあった窓ガラスに叩きつける。

 必然ガラスは割れ、階下でガラス片が砕ける甲高い音、続いて女生徒と思しき悲鳴が上がった。

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