10.SNS、はじめました 5
ともあれ、兄の言葉は言われてみればもっともだ。他の友達とはもっと気軽にくだらないメッセージを送りあっているのに何を身構えていたんだろう。
目を閉じて深呼吸をする。
ここは学校の実習棟の3階一番奥の部屋。
文芸部室の扉を開けばいつものように彼女が笑顔で迎えてくれる。それは不敵で、冷笑的な。
【早くも8月に入ってしまったわけですが】
ぽちぽちとメッセージを打ち込んで送信する。後は野となれ山となれ、だ。スマホをテーブルに置いて冷蔵庫から冷えたお茶を取って戻ってくると、返信が届いていた。
【そうだね、今日も暑い。夏の日差しというものはなぜこんなにも厳しいのだろう。夏休みでなければ死んでいたかもしれない】
いつもと変わらない言葉に安堵する。そう、最初からこんな程度のことで良かったのだ。
【死にませんよ、どこのお年寄りですか】
【18歳JKだね】
【夏休みに家から出ないJKなんていません】
【いるさっ、ここにひとりね!】
【まったく、その調子だと今日も家から一歩も出てなさそうですね】
【もちろんだよ。出るに足る動機がないからね】
【火事になっても家から出なさそう】
【そんなことはないよ。休みに入ってから既に一度外出したし】
【あ、一回出たんですね。ところで夏休みが始まって十日にもなろうというのにまだ一回って事実とどっちに驚くべきか決めかねるんですが】
【ええ…】
【驚異的ですよこれ。ちなみにどちらへ?コンビニですか?】
【ショッピングモールだよ】
先輩の家に直接行ったことは無いが最寄り駅は聞いている。このあたりのショッピングモールから電車でも3駅くらい離れているはずだ。
【へえ、ショッピングモールですか】
飲食店のテナントも多いし映画館やカラオケも併設されている、結構規模が大きいので確かにちょっと出かけるには手ごろだろう。けれども。
【ショッピングモールだよ】
同じ文面が返ってきた。何か圧を感じる。
あれだけ否定的だった先輩が娯楽でショッピングモールに出かけるだろうか。
【ショッピングモール】
なんだか言葉にならなくて意味もなく僕も繰り返し打ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます