10.SNS、はじめました 6
【なんだい】
【なにを買いに行ったのかなと思いまして】
我ながら身も蓋もない問いだった。返答までに数分の間があった。
【まあ野暮用というか、ちょっと買い物に】
そりゃあそうでしょうよ。心の中で突っ込むが、そのまま出力していいかどうか悩ましい。
【それは知ってますというか分かってますというか】
【なんだい】
返事が早い、しかもぞんざいだ。
表情が見えない。それだけのことにもの凄い圧力を感じる。
【今の先輩がなんの用もなく出かける可能性皆無ですよね】
【そうだね】
間は無かった。
【コンビニとか本屋とかフタバとか言わない辺り、ショッピングモールに入っているテナントでしか買えない物を見に行ったんですよね】
勢いだった。思うさま推論を打ち込んで送る。
【まあ、そうだね】
間があるような文面をノータイムで打ち込んでくる。ここでふっと手が止まる。家に散らばっていた広告を見たような記憶がある。それはなんだったっけ…。
たっぷり二分。家に置いてあった広告を思い出す。
【あのショッピングモールの『夏休み水着フェア』って先週でしたっけ】
間があった。
一分。
二分。
冷蔵庫に兄さんの持ってきたコーヒーがまだあったっけ。
ぴろりん、メッセージが届いた。
【キミのような勘のいい後輩は嫌いだよ】
買ったんだ。あの先輩が。水着を。
【冗談でも嫌いって言われるとちょっと傷つくなあ。買ったんですね水着】
また間がある。
一分。
二分。
三分。
四分。
【えっと、すまない】
わざわざ謝ってきた。なんだかちょっと神妙なような?いつもと同じテンポにならないっていうか、難しいなこれ。
話を変えよう。そんなことより水着だよ。
【いえいえ。じゃあいよいよプールに行く覚悟が決まったんですね】
普通はそう考えるだろう。わざわざ水着を新調、それも聞いた限りでは初めて自分で買ったみたいだし。
けれども。
【だけどプールに行きたい気持ちにならないんだよね】
【どうして】
脊髄反射だった。
【わざわざ水着を買ったのにプールに行かないってどういうことです】
【いやあ買い物に出るのも結構暑かったし、買った時はそれなりにテンションも高めだったんだけれど、いざ家に帰ってくるとそれより暑かった気持ちの方が強くてもう一度家から出たい気持ちにならないというか】
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