10.SNS、はじめました 2

 学校で顔を合わせているときは不思議と話題に困ったことないのだけれど、会話のきっかけは新田のほうが圧倒的に多く、それはいつもなんらかの問いや賭けのようなものだった。

 新田の奇行に不二が突っ込むということもままあったが、それにしても主体は彼女のほうで、彼からのアクションはあまりなかったと言わざるをえない。


「いざとなるとこう…」


 難しい。どうアプローチすればいいのか。

 暇さえあれば本を読んでいる新田にはそもそも日常的にSNSを使う習慣がないのだろう。ゆえに普段主導権を持っている彼女からの連絡はなく、またこちらからもどう切り出したものか迷ってはや十日が過ぎていた。


 今日もこれといったアイデアもなく自宅の居間に転がってスマホを見上げていると、そこに陰が差す。


「や、なにしてんのスナくん」


「ああ、兄さん」


 転がっている少年を覗き込んだのは同じ体躯、同じ髪型、どちらかと言えばやや細く、髪の色はやや濃い灰色をしている。不二 真ふじ まこと。兄だった。


「この間のコーヒー父さんが気に入ったって。家で常備したいって言うから纏まった量持ってきたんだけど」


 そう言ってにこーっと笑うその顔はこの上なく無表情で、それでいて満面の笑みだ。兄さんは家族があまり好きじゃない。


「どうでもいいことかも知れないけど、兄さんの退院が決まったとき、父さん泣いてたよ」


 一応フォローを入れる。大病を患って幼い頃から病院暮らしだった兄さんが、自分不在の家で和気あいあいと過ごしていた(わけでもないのだけれど)僕らに好意的になれないのは仕方がないとも思う。


「へぇ。そりゃありがたいや。ところでなんで今ここで二年も前の話するんだい?」


 わかってる。兄さんがこの笑い方をするときはなにかしら気に入らなかったときだ。だから突っかかってくる。


「わからないならスズさんにでも聞いてみたら?あ、なんだったら僕から言っとこうか?」


「あははは」


 スズさん、正しくは鈴蘭すずらんさん。兄さんがこの世で唯一頭の上がらなさそうな人。兄さんの奥さん、というか、病院で知り合った兄を婿にした面白奇特な女性だ。彼女の名前を出すと彼は誤魔化すように笑って肩を竦めた。


「そんなことよりスナくん、最近女の子の連絡先ゲットしたでしょ」


 すっと視線が僕の手元に向いた。彼の動作はそれだけだった。

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