9.好きに線引く夏の思い出.7
「服と違って髪や肌は自分の一部だからねえ」
「いやいや、いくら取り換えが利くっていっても服だって自分の一部みたいなもんですよ。服に対する評価が余りにも低い…」
「そもそも自分で言うのもなんだが、制服凄く似合うと思ってる」
「まあ否定はしませんけど」
「そうだろうそうだろう」
自画自賛するように頷く彼女に水を差すように彼は続ける。
「でも先輩進学でしたよね。どこの大学だって制服なんか無いですし、そんなことじゃ来年度早々恥ずかしい思いをしますよ」
「ぐっ…」
「まさかとは思いますけど、セーラー服で大学に通うつもりじゃないでしょうね」
「いやさすがにそれは…ない…けれども…」
「今から鍛えておいたほうがいいんじゃないかなーって思いますけどねー」
ニヤニヤと笑う後輩の顔にイラっとして反射的に額をデコピンで弾く。
「あいたっ」
「ご忠告どうも」
「いえいえ…」
新田の浮かべた薄ら笑みに不機嫌を感じ取って愛想笑いを浮かべる不二。
その顔をたっぷり一秒見つめて、呟くように続ける。
「けれどもプールについては、そうだね。一応、そう一応心の片隅くらいには留めておこうかな」
後輩の表情がきらりと輝いた。
「ほんとですか」
「まだ行くとは言ってない」
「あっはい」
景気よく食いついてきた後輩を制して溜息を吐く。
「まったく。だいたいそこまで言うならだよ。キミのほうは既にそれなりに夏休みの予定が詰まっているんじゃないのかい」
「それはもちろんそれなりに」
しれっと即答する不二。
「ふむ…なるほど」
それなりに夏休みの予定が詰まっている後輩の、本日ここまでの言動を改めて振り返ってみる。
室温が上がった気がするのは、陽の光が近いからだろうか。
「暑いね」
視線を向けることなく彼女が言う。
「夏ですからね」
視線を外しながら彼が答える。
「もう一本食べないかい」
「いいですね」
お互い目を合わせることなくシャーベットを分け合う。
部室は暫く静かだった。
今年の夏は、まだ始まったばかりだ。
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