9.好きに線引く夏の思い出.5
「驚くのはまだ早い。なんと冷凍室付きだ」
「そこは驚くところじゃないような。どうしたんですかこれ」
「部費で買った」
「ええ…いいんですかそれ」
「いいんだよ、部員が部活動に専念するための必要な設備投資なんだから」
彼女は困惑する後輩に構わず冷蔵庫を開くと、中からパステルカラーの棒を一本取り出す。真ん中でくびれたポリエチレン製の容器に入ったそれは、家でもよく見かけるおなじみのシャーベットだった。
「ほら、神の奢りだぞ。ありがたく受け取りたまえ」
よく冷えたそれをポキンとふたつに折ると、片方を不二に差し出す。
「あっはい、ありがとう、ございます?」
彼女は未だに状況がよく飲み込めていない後輩に構わず床に直接座り込むと切断面からシャーベットを齧り始め、不二もなんとなくそれに倣って隣に腰を下ろす。
「どうだい、キミひとりで良かっただろう」
「あー、なるほど確かに」
三人ではわけられない、という。
「そういうこと」
そう言ってシャーベットを齧る新田は、齧るというか、歯を立てて噛み砕くようなちょっと荒々しい食べ方で。
「こっわ」
ちょっと引く。
「なにか言ったかい」
彼女はそう言ってまたガリっと乱暴に、むしろわざと見せつけるようにシャーベットを齧り取って笑みを浮かべた。不敵で、冷笑的な。
「いーえなんにも」
彼はにこーっと笑み作って返す。
「キミは…最近悪い笑い方するようになったね」
「まさか、もしそうだとしてもきっと先輩の影響ですよ」
「ええ、私かい」
虚を突かれたようにきょとんとする新田に感慨深い面持ちで頷く不二。
「そりゃそうですよ。鏡見たことないんです?」
嬉しいような気まずいような半笑いを浮かべた後、ふと何か思い付いたように黙る。
「いやまあそれなりに笑顔には自信があるけれども…ふむ」
「あ、やっぱりわざとやってるんですね。って、なにかありました?」
新田はシャーベットの大半をガリガリと齧りつくしてしまい、容器に残った欠片を握って溶かしながらひとり納得したように唸っている。
「ふむ…ふむ」
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