9.好きに線引く夏の思い出.4

「先輩…いくらボッチだからってそこまで拗らせてるとこれから先が心配です。僕が遊んであげますからどこか行きましょう」


「最近流行りのウザ絡みする後輩漫画みたいな言い方は止めるんだ。私はボッチじゃない」


「そんなこと言って先輩の口から友達の話とか聞いたことないですけど。友達居ないんでしょ」


「失敬な、私にだって友達くらい…」


 指折り数える。


「1…2…3…4…いや、3…やっぱり4かな?…いや…うーん、2、1ということも…」


「それ先輩が友達だと思っているだけだという可能性は」


「そういうことを言うのはやめるんだ不安になる」


「どっちにせよ自分でもひとりしか居ないかも知れないと思ってしまうレベルなのはなかなか深刻なんじゃないですか?」


「いいんだよ、孤独が一番自由なのさ」


「わあ、開き直った」


「ふふふ、自分を偽ってまで見栄を張っても仕方がないからね」


「いいこと言った風に聞こえますね」


「そうだろうそうだろう。崇め奉りたまえ、私が神だ」


「いいえ、部長です」


「部長なんて神みたいなものだろう」


「活動してる部員僕しか居ませんけど」


 その言葉に何か返そうと口を開きかけて閉じ、ひと呼吸置いて妙に得意げな笑みを浮かべて立ち上がった。


「くくく、ひとり居れば十分さ。…むしろ好都合だよ。ちょっとこっちに来たまえ」


「え、はあ。なんです急に」


「いいからいいから」


 新田は文芸部室の後ろにある本棚の一番奥へ向かっていき、本棚の一番奥の一角を指さす。


「…冷蔵…庫?」


 言われるままついていった不二が示された先、本棚の一番下の段の一部には、本ではなく小さな冷蔵庫が収まっていた。

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