9.好きに線引く夏の思い出.3
「でもこの間わからないことをわからないままにしておくのは気に入らないとか言ってませんでしたっけ」
「そんなことは言ってない。わからないまま唯々諾々と他人に従うのは気に入らないとは言ったけどね」
「ええと、何事も理解と再構築、とかも言ってませんでしたっけ。理を識り分けて見極め己なりに組み直せれば賛否はさておき血肉にはなる、とかなんとか」
新田が一瞬「ぐっ」っと呻く。
「…あのときは上手いこと言ったつもりだったけど、今にして思えばあれはちょっと無理のある言い回しだったなと、そうだね…反省してる」
苦々しい顔で撤回を口にする新田。外に出たくない気持ちの強さが半端ではない。
「また大胆に前言撤回してきましたね」
呆れる後輩に対して得意げに胸を張る先輩。
「ふふふ、君子は豹変し小人は面を
「これ他人から見ると君子なのか小人なのかわからないところがミソですね」
「何を言ってるんだい。君子だろう?」
「クンシデスネー」
「よろしい。すなおは美徳だよ」
「まあ名前も
文芸部二年生、
「…」
新田は笑いを堪えるような歯の奥に何か挟まったような複雑な顔で沈黙している。
「ちなみに兄さんは
「カフェで働いてるっていう、偏屈と評判の」
「はい」
「ははあ…名は体を表すということわざがあるけれど」
「おっと僕は今先輩にすなおさを褒められたばっかりですよ」
「ソウダネー」
顔を見合わせてお互い温い笑みを浮かべる。
「まあともあれ」
「はいともあれ」
「夏休みにわざわざ予定を立てる予定はない。強いて言うなら家から極力出ない予定だよ」
改めて具体的に切り捨てる新田。
「もしかして幼い頃からずっとそんな乾いた夏を送ってきたんですか」
「そうだよ」
即答だった。
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