第152話 カレーが食べたいな
アルデランドにてシルのナイフをヴェンデルに発注したアルとセアラは、森の自宅へと戻り二人で並んで少し固めのソファに身体を預ける。
「はぁ……なんだかどっと疲れた……やっぱり
「ええ、でもいい物が出来そうでよかったですね。それにしても、まさかヴェンデルさんがアルさんのメイスを作った方だったなんて驚きました」
「だろうな。あの人は元々ドワーフ随一の武器職人だったんだよ。ヴェンデルさんがアルデランドの礎を築いたって言われているけれど、実際には外商に行った時に出会った人族の奥様の尽力が大きかったらしい。その奥様はもう亡くなられて久しいみたいだけどね」
「そうだったんですか、だからマルティンさんはあんまりドワーフっぽくないんですね」
「ああ、その上エリカさんがマルティンさんの奥さんとなれば、ジュリエッタちゃんの見た目がほとんど人族だっていうのも当たり前のことだよ」
「そうですね。それにしてもドワーフとしての血は薄いはずなのに、ジュリエッタさんの魔力はかなりのものでした。きっと鍛えればすごい魔法使いになりますよ」
「ああ、セアラも気付いたか。まあ彼女の夢は素敵な旦那さんを見つけることだから、そんなことをする必要も無いけどな」
「ふふっ、少し勿体ないですけど、それもそうですね」
珍しくアルがおどけてみせると、セアラは柔らかく笑いアルの肩にそっともたれかかる。
「……アルさん、マイルズさんと仲直り出来て良かったですね」
「……まああれくらいなら日常茶飯事、ちょっと組手をしたってだけのことで喧嘩じゃないけどな」
「ふふっ、はい、そうですね」
あの場にいた誰もが否定するであろう言葉にも、ニコニコしたまま手を繋いで肯定するセアラ。アルはバツが悪そうに頭を掻いてセアラに寄りかかる。
「……セアラ……ありがとう」
「はい、どういたしまして」
二人がそのまま心地よい空気に身を任せて微睡んでいると、玄関のドアがバァンと開かれる。
「あ〜っ!!パパとママったら、お仕事休んで二人でお出かけして〜!!ずるいんだ〜っ!!」
リビングの二人を見つけるやいなや、シルがビシッと指さして鼻息を荒くする。
「あら、おかえり。早かったのね、てっきりもっとかかるものだと思ってたわ」
シルの後ろから、保護者として解体場について行っていたリタが顔を出す。
「うん、さすがに出来上がるまで待つなんて出来ないからね。また取りに行くよ。無理を言って休ませてもらったんだから、早く仕事に戻らなきゃ」
「そう?モーガンさんはいつもよく働いてもらってるから大丈夫だって言ってたけどね。二日酔いで当日休む馬鹿もいるって愚痴ってたわよ」
「それは確かにそうかもしれないけど……だからって私が甘えていい理由にはならないでしょ?モーガンさんは私の恩人だもの、ちゃんとしたいの」
「真面目ねぇ、私に似たのかしら?」
「ねぇパパ、ママ、何が出来上がるのを待つの?」
ちゃっかりとアルの膝の上に収まったシルが小首を傾げると、アルとセアラがその銀髪をワシャワシャと撫でる。
「それは出来上がってみてのお楽しみかな」
「え〜、気になるな〜」
先程までの怒りはどこへやら、二人に撫でられてご満悦な表情を浮かべるシル。そんな娘をアルは背中からぎゅっと抱きしめる。
「なぁシル、今日の晩ご飯はシルの好きなものにしようか?」
「ホントっ!?えっと〜、う〜ん……何がいいかなぁ〜……」
「シル、遠慮しないで何でも好きなものを言ったらいいのよ?」
「う〜ん……じゃあ……カレーが食べたいな!前にパパとママと行ったお店に行きたいな!おばあちゃんにも食べてもらいたい!!」
「カレーかぁ、そう言えばずっと食べてないね。じゃあ行きましょうか、アルさん」
「ああ、いいよ。みんなで行こう」
「やったぁ〜!!」
アルが膝の上のシルをふわっと持ち上げ、外に出るなり肩車をすると、シルはきゃっきゃと喜色に満ちた声を上げる。
「あのね、セアラ。シルちゃん、あんな風に振舞ってるけど、寂しがってたわよ?ちゃんと見ててあげないとダメよ?そうじゃないと子供なんてね、ちょっと目を離してたら、本当にすぐ大きくなっちゃうんだから」
実感のこもった声色でリタがセアラに耳打ちすると、セアラはいつものように微笑んでこくりと頷く。
「うん、分かってるよ。私も、アルさんも、ね……いつもありがとね、お母さん」
「いえいえ、どういたしまして」
※あとがき
ちょっと短くてすみません
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