第151.5話 そういうことになるかもよ?

 アルとセアラがアルデランドへと向かった日、解体場の休憩室でシルがリタと共に昼食を取っていたところに、レイチェルがピンク色のラッピング袋を小脇に抱えて駆け寄ってくる。


「シルちゃーん、ちょっと早いけどこれ私からのお誕生日プレゼント。この前、小説読んでみたいって言ってたでしょ?多分これなら読みやすいから」


「わぁ!ありがとう、レイチェルさん!!初めてで何を読んでいいか分からなかったから、すっごく助かります!!」


「そ、そうなんだね」


(よくよく考えたらシルちゃんの記念すべき一作目が私のチョイスって……アルさんとセアラさんに怒られないかしら……?)


「ねぇねぇレイチェルさん、開けてもいい?」


「え?ええ、もちろんよ!」


 はやる気持ちを抑えラッピングを丁寧に解いて、本を取り出すシル。表紙には金髪碧眼のイケメンが、五人の様々な種族の女性から抱きつかれている絵。


「わ〜、可愛い絵だねぇ。えっとタイトルは……『前世が超絶不幸だったから、不憫に思った女神様にスキル盛りだくさんで大貴族の息子に転生させてもらったけれど、手違いでスキル無しだと判断されて追放された件〜戻ってきてくれと言われてももう遅い、最強スキルでハーレム作っちゃいます〜』かぁ。へぇ〜、面白そうけど……何だか長いタイトルだね。覚えられないよ」


「それは仕方ないわ。トレンドに乗っかっている以上、タイトルで内容をある程度説明しないと読者に訴求出来ずに埋もれちゃうもの。でもね、私も読んだけど面白かったよ!特に主人公のもらったスキルが判明して……」


「わぁっ!ダメだよっ!!内容言ったら面白くなくなっちゃう!」


「そ、そうね。ネタバレ野郎は細切れにして豚の餌よね」


「タイトルでほぼネタバレしてないかしら……」


 力強く言い切るレイチェルに、リタは二人に聞こえないようにボソリと小声でつぶやく。


「そこまでは言わないけど……読んだら感想教えるねっ!」


 シルはそう言うと、昼食もそこそこに早速読み始める。


「あらあら、こうなったらもう私たちの声は届かないわね」


 リタの言葉の通り、シルは一度集中をすると周りがどんなにうるさくとも、それを途切れさせるようなことがない。彼女の魔法の才は、その集中力に因るところも大きい。


「あの……リタさん」


「何かしら?」


「ハーレムものは不味かったですかね……?」


「どうして?」


 おずおずと尋ねるレイチェルを、リタは不思議そうに見返す。


「ほ、ほら、やっぱりアルさんはセアラさん一筋な訳ですし、シルちゃんもそういう主人公の方が親しみが……」


「別に関係ないわよ?それに将来になるかもしれないでしょ?」


 左手で頬杖をつきながら、右手でシルをちょいちょいと指さすリタ。


「は……?……えぇーーーっ!!!!そ、そんなこと有り得ますっ!?」


 一拍置いてその意図を理解したレイチェルが、驚きのあまり絶叫にも似た声を出す。慌てて口元を押さえるが、シルは全く聞こえていないのか、本に集中したまま顔を上げることは無い。


「ひとつ屋根の下で四六時中顔を突き合わせていれば、外からは分からないことも色々と見えてくるってことよ」


「それはまぁ……理解は出来ますが……」


 腕を組み、自信たっぷりに宣うリタに、レイチェルは納得がいかずにむぅとへの字口を作る。


(でもでもっ、そんなの惚れた弱みに付け込むようなもので、セアラさんが可哀想じゃない!本当にそうなったなら、アルさんに文句の一言でも言わないと気が済まないわっ!!)


 密かに息巻くレイチェル。そんな思いは露知らず、リタは小説の展開に合わせて忙しなく動くシルの耳を見ながらふふっと笑う。


「セアラは間違いなく賛成するとしても、問題はアル君よね。あの子は真面目だからねぇ……色々考えるだろうし、簡単には行かないかな。どっちにしろまだ少し先の話だし、私はのんびりと見守っていくことにするわ。あ、これ内緒にしておいてよ?」


「……セアラさんが……?えぇぇぇーーーーーーーっ!?」


 昼休憩中で静かな解体場に、本日二度目となるレイチェルの絶叫が響き渡るのも致し方のない事だった。

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