第2話

豪邸の玄関からすぐ近くには馬小屋があった。しかあいその馬小屋は小屋というにはあまりの大きな家であった。馬一頭、一頭に広々としたスペースが設けられおり、御者が休め羽を伸ばせる設備が充実している。

いつも主人の移動を任され、さまざまな屋敷や街に訪れてきたが馬小屋にここまでお金をかけた場所は初めてだった。一体どうしてこれほどまでの馬小屋を建てれる財力があったのか、戦争でどこも困窮しているはずなのにこんな二家族住んでもまだスペースがあまる馬小屋を造ることが出来たのだろうか。

マグカップを片手に考えていると、屋敷と繋がっている扉から主人が現れるのみた。すぐさまカップを置くと、素早く馬に車を付け直す。馬もこの空間を満喫していたのか、ここを離れると分かると嫌そうに鼻を鳴らした。

そして主人が馬車の前に着くよりも早くに扉を開け、乗車されるのを待つ。ここまでの動きはいつもやっていること、御者も馬も手馴れていた。しかし肝心の主人の様子がいつもと違っていた。

顔からは血の気が抜けて真っ白になっており、見るからに気分も悪そうだ。そして屋敷に入るときのは二人いたはずの護衛が一人減っており、その戻ってきた護衛の目も虚ろでここ数日何も口にしていないこのようにやつれていた。


「おい、すぐに戻るぞ。夜になる前にはワシの屋敷に着いておけ」


いつもは何も言わずただ乗られるのを待つだけだが、この状態で走らせるの体調をさらに悪化させるのではと感じた。


「しかしご主人様。どこか顔色が優れないようですがいかがされましか? 体調がよくないのならしばし休まれてから出発した方がよろしいかと……」

「誰に向かって口をきいている! いいかワシが行けと言ったのなら貴様は黙ってそれを実行しろ!」


そう怒鳴られるも心配が消える訳でもない。だがやれと言われたのならやらねばならないが仕事、「承知しました」と答え、主と護衛が乗ったのを確認すると、馬小屋の管理人に軽く会釈をしてヒラリと御者席へと乗り馬を走りだせた。

街道を通るとここに入った時と変わらず無関心な人並みを横目に駆けていく。そして門の前に辿り着くと、先に着いていた他のまだ荷物検査を受けている馬車を抜かしながら、何のチェックも受けずに街をでた。しばらく走らせると森の道に入り込む。奥に入る度に街の喧騒は薄れ、静かな風の囁きが聞こえるほどに静まり返った。

その時、今まで他の音に遮られた聞こえていなかったのか主人が何か呟いているのに気が付いた。


「ひっ、ひひひ……これで大丈夫だ。ああこれが正解だ、ワシは間違っていない。まさかこんなものを隠しておったとは……ひひ、ひひひひ」


引きつった笑い声と不穏な言葉。さらに聞き耳を立ててみたいという思いが湧いたが、これ以上踏み込むと自分の身にも何か良からぬことが降り注ぐ気配を感じ、自らの好奇心を抑えながらただ運転に集中することにしたのだった。

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