第3話:まさかの居候ヴァンパイア!? ②

 ありすが出ていくと静寂が訪れた。


「ごめんなさいねぇ、あの子昔から我が強いのよ~。あらどこに行くの?」

「話をしてくる」

「そう、気を付けてね。ありすの部屋は―――」

「大丈夫だ。わかっている」


 ディアンはそう言うとありすの部屋へと向かっていった。


「おい小娘。入るぞ」


 ディアンが扉を開けるとものすごい勢いで枕が飛んできた。


「帰れ!入るな!」


 ありすの怒号がディアンの耳をつんざいたが、ディアンはキャッチした枕を片手に部屋に入った。

 そして置いてある椅子に座り脚を組んだ。


「入るなって言ってるでしょ!」

「落ち着け小娘。今からする話はキサマにとっても重要なことだ」


『重要』というディアンの言葉にありすは手に持った抱き枕を下ろした。


「重要ってどういうこと」

「端的に言うと、キサマとオレ様は主従関係になったということだ」

「・・・はい?」


 意味がわからなさすぎる発言にありすは怒りも忘れ、声が出た。


「あの時、オレ様はキサマの血を飲んだ。そして小娘、お前はそれを了承した。それにより契約が完了し、主従関係が出来た」

「それは私が―――」

「下に決まってるだろ。お前が従者だ」

「なんで―――いやそれはもういいや。それより契約ってなに?従者関係ってどういうこと?そんなこと私が信じるとでも?」


 ありすの質問を聞いたディアンは面倒くさそうに頬杖をついた。


「別に信じないならそれでもいい。この契約はオレ様には何も影響はないからな」

「は?でも重要って」

「キサマにとってはな」


 ディアンの言葉にありすはムスッとした表情を見せた。


「どういうこと?」

「質問ばかりだな」

「当たり前でしょ!こっちは訳のわからないことばかりなの!さっさと答えて!」

「怒鳴るな。響くだろ」


 ディアンは頬杖を解き、脚を組み替えると説明を始めた。


「先ずキサマが知らなければならないのはオレ様についてだ。わかっているかと思うがオレ様は人間ではない。オレ様はヴァンパイアだ」

「ヴァン……パイア?」

「お前の父が言っていただろ。オレ様が遠い場所から来たと。それは海外なんかじゃない。異世界だ」

「ハッ、バッカみたい。そんなことあるわけないじゃん」

「あるから言ってるんだろ。面倒なヤツだな本当に。キサマの親と弟はすぐに受け入れたぞ」

「みんながおかしいの!普通の人はアナタの言うことなんか信じるわけないでしょ!」


 ディアンはため息をつくとまた頬杖をついた。


「ならキサマの見たあのバケモノはどう説明する。あんな生物がこの星にいると思うか?」

「それは……」

「それに―――」


 ディアンは左の袖を捲った。


「……え?どうして」


 ありすはディアンの左腕を見て驚愕した。

 ありすの記憶が確かならばあの時、ディアンはありすを庇い腕から大量出血するほど深く噛まれていたはずである。

 なのに、ディアンの左腕に傷は一切なかった。


「これがただの人間の成せる業ではないということは、流石にわかるだろ」


 ディアンは袖を戻しながら言った。


「ヴァンパイアにはヨグドス―――あのバケモノを引き寄せてしまう性質がある。そしてその性質は従者であるキサマにも引き継がれている」

「は?なんでよ。ていうか何、やっぱりアンタあの化物の飼い主なんじゃないの」

「飼い主?そんなわけがあるか。ガーゴイルのような醜い生物を好き好んで飼うバカがどこにいる。バカかキサマは」

「……性質についての質問の答えは?」


 ありすは怒りをなんとかこらえ会話を続けた。


「それについてはあくまでも可能性だ。異世界人と契約したヴァンパイアなんてこの世にいるわけがないんだ。わかるわけないだろう」

「わかんないんだったら出ていきなさいよ。いても変わらないから」

「いいのか?どんな副作用があるのかもわからないんだぞ?」

「ヌググ……」


 確かにヴァンパイア同士での契約については全てわかっているだろうが、人間との契約に前例がないとなると何が起こるかわからない。―――契約をしていれば


「いや、だけどアンタと私が契約をしているという証明がない以上、置いておくことはできない!残念だったわね。諦めなさい」

「本当に面倒くさいヤツだなキサマ」

「何とでも言いなさい。私は不審者を住ますなんて絶対にさせないから。家に居たかったら証明してみせなさい!」


『勝った』とありすは思った。気になることはあるがそんなことは寝ればキレイさっぱり忘れられる。兎に角この不審者を閉め出すほうが先決だった。

 だが―――


「クローゼットの右端の二段目の箱」


 ディアンはクローゼットを雑に指差した。

 予想外の行動―――だがありすは平静を装った。


「何よ。そこに何かあるとでも?」

きわどいコス―――」

「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

「どうしたんだい!」


 ありすの大声にありすの父が全速力で部屋に侵入してきた。


「大丈夫、何でもないから!出てって!」

「ホントに大丈夫かい?」

「大丈夫。大丈夫だから。ありがとう、バイバイ!」


 乱雑に父を追い返すと、ありすはディアンに詰め寄った。


「なんだおいコラ。テメェ、強盗か?おい。なぁ答えろよ。いつ私の部屋に入った」


 まるで性格が変わったようにぶちギレたありすはディアンの胸ぐらを力任せに掴んだ。

 凶器でもあればそれを使い殺してしまうのではないかというほどの圧。だがディアンは一切臆する様子はなかった。


「誰がこんな面白味もない小娘の部屋なんかに入るか。これも契約の効果だ」


 それどころか煽る姿勢をみせた。


「どういうことよ」

「契約は主従関係を明確にする。その際に主となる者は従者の記憶を共有する。それによりオレ様はキサマの持つ記憶を全て得た訳だ。だから日本語も喋れるようになったし、キサマしか知り得ない情報も持っているという訳だ。わかったか?小娘」

「ストーカーの間違いじゃないの?」

「そうか、まだ信じられないか。ならば仕方ないな」


 ディアンは一瞬不気味な笑みを浮かべると、おもいっきり息を吸った。そして―――


「ボクの!ワタシの!ドキドキ学園生活ーーーーーーー!」

「――――――――ッ!!!」

「第一話―――」

「待て待て待て待て、待って!」

「何だ、邪魔をするな。オレ様は今から『ボクの!ワタシの!ドキドキ学園生活!』という小説の第一話を喋ろうとしただけだろうが」


 ありすは冷や汗が止まらなかった。それに顔から火が出るのではないかというほど火照っていた。

 何故、この男が大昔にノートに書いた誰にも見せたことのない、黒歴史確定小説を知っているのか。恥ずかしさで脳がショートしそうだった。


「まさかホントに……」


 ディアンは言葉は発さなかった。代わりにザマァみろと言わんばかりに憎たらしく、バカにした表情で返事をした。


「イヤだーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

「どうしたんだい!」


 ありすの悲しみと恥ずかしさと怒りの混じった叫び声を聞いた父が、またもや扉を突き破る勢いで入ってきた。


「安心しろ父上。何もしていない。住む許可が下りただけだ」


 ディアンは立ち上がると、心配そうなありすの父の肩をポンと叩いた。


「そうかい!それは良かった!これでディアンくんも家族の一員だ!早速ママに報告だ!」


 ありすの父は子どものように喜ぶとありすの母の元へと走って行った。


「言い忘れていたが、契約によりオレ様が死ねば小娘も死ぬからな。それとシャーペン隠し持っているのバレバレだぞ」


 最後の最後に超重要事項を伝えると、ディアンは部屋を出ていった。


「な……な……な……なんじゃそりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


 吸血鬼ディアンとありすの運命共同生活が始まった。

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