祝福と孤独
「翔太せんぱーい」
声がした方向を向く。
手を振っているのは、涼風だ。
「翔太先輩こんなとこで何してるんですか?」
「鈴音と遊んでるんだよ」
「そうなんですか? 」
「そういう涼風は何してるんだ?」
「私は友達と遊ぶんですけど、まだ時間が早いのでぶらぶらしてました。ねえ翔太先輩、まだ時間あるんで一緒に遊んでもいいですか?」
「ああ、いい───」
遠くに鈴音の姿が見えた。
距離があるので表情は分からないが、こちらには気づいているだろうか。
「ごめん、今日は二人で遊ぶよ」
断るのは少しだけ辛いが、今日は鈴音とのデートだもんな。
「そうですか……分かりました。また機会があったらお願いしますね!」
「ああ、その時はよろしく」
「それでは! デート楽しんでください」
涼風はその場を去っていく。
それと入れ替えで、鈴音がこちらに近づいてくる。
少し俯いているので表情がよく分からない。
「ごめん、待たせたね」
鈴音から返事がない。
やはり先程の現場は見えていたのだろう。
「はいこれ」
買った炭酸ジュースを渡す。それを受け取ると、拳を握りそれを腹部にめがけて打ち上げる。
何とか当たる前に受け止めることが出来た。
「何するんだよ!」
「翔太さん、今日は私とのデートですよ。何やってんですか!」
鈴音が声を大にして怒ってくる。
「仕方がないじゃん、向こうから話しかけてきたんだし」
「それにしても遅いですよ! いいですよね、可愛い後輩が慕っていて」
「悪かったって、そんなに怒るなよ」
「本当に悪いと思ってますか? それなら、はい」
怒りを沈めると、右手を差し出す。
その手を握り、ボウリング場へと戻って行った。
「翔太さん、私待ってますからね」
「何を」とは聞かない。何を伝えるべきなのかやっと分かった。
だがそれを伝えるのは、最後だ。
それまでは目の前のことを楽しもう。
その後三ゲームしたが、鈴音に勝つことはなかった。
ボウリングを終えると、ゲームコーナーに向かった。
家族や友達同士、カップルなど多くの人がいた。
あまりこういう所には来ないため、とてもうるさく感じた。
「翔太さん、次あれやりましょうよ」
鈴音が指を差したのは、音楽ゲームだった。
ドラム式の洗濯機のような形をしており、筐体の上には『MyMy』と書かれていた。
「これどうやるんだ?」
「真ん中からノーツが出てくるので、タッチしたり長押ししたりするんですよ」
既にプレイしている人がいたが、あまりの腕の速さに驚いていた。まるで千手観音のようだ。
「あんな事できないぞ」
「大丈夫です、簡単なやつもありますから。あとこれ渡しておきますね」
鈴音から手渡されたのは手袋だった。
そういえばプレイしている人は全員手袋をつけていた。
「なんで皆これをつけてるんだ?」
「スライドする時があるんですけど、それないと指紋無くなりますよ」
確かに素手でやると、摩擦で痛いかもしれない。
「というか鈴音はよくこういうのやるのか?」
「音ゲーなら週四くらいでやってます」
「そんなに楽しいものなのか?」
「めっちゃ楽しいですよ、スコア更新した時とかよっしゃーって叫びたくなりますし」
音楽ゲームであっても、なにか目標を持って挑むというのに達成感があるのだろう。
「翔太さん、空きましたよ」
筐体の前に立つ、一通り説明をしてもらい、プレーも見ていたのでチュートリアルをスキップする。
「曲はどうします?」
「鈴音に任せるよ」
ボタンを押して、曲を決めていく。
選んだ曲は、一度は聞いたことがあるアニメのオープニングだった。
曲が始まる。丸いノーツが中央から流れて来るのでリズム良く押す。
なかなかタイミングが掴めず難しい。
その横で鈴音はものすごい瞬発力で次々と処理をしていく。
(あれは絶対に記憶してる……)
曲が終わるとクリア画面が表示され、80点と表示されていた。
一曲やっただけなのに疲労が凄い。
「翔太さん! やりましたよ!」
ピースサインをする鈴音の画面をみると、そこにはパーフェクトの文字が表示されていた。
「鈴音この曲暗記してるだろ……」
「バレましたか? ほとんどの曲暗記してますよ」
それだけやり込んでいたのだろう。
その後も鈴音はパーフェクトを連発して、実力の差を見せつけた。
「翔太さんめっちゃ疲れてません?」
「慣れないことやると疲れる……」
一方鈴音は、慣れているだけあって余裕があった。
「じゃあ次は定番のあれですね」
連れて行かれたのは、プリクラだった。
写真を取るだけで、五百円も取られるのは一体どうなんだ。
「じゃあ入りましょ」
背中を押されてそのまま中へと入っていく。
中に入ると「いらっしゃいませ」の声と共に、正面の照明が光る。
画面を操作して、カメラの正面に立つ。
「翔太さん何かポーズしてくださいよ!」
「そんなこと言われても……」
カウントダウンが開始し、ゼロの瞬間にフラッシュがたかれる。
撮った写真が表示されると、笑顔の横に目を瞑っている自分がいた。
「何やってんですか……もっと笑って! 目は瞑らない!」
「そんな事言うなよ……あんまり慣れてないんだから」
次のカウントダウンが始まる。
「はい、 笑ってくださいよー、ピース!」
フラッシュがたかれる。
一枚目よりはましな写真がとれた。
「いいですねー次が最後ですよ!」
カウントダウンが始まる。
一の瞬間に鈴音の顔が迫る。
頬に柔らかな感触があった。
「翔太さんは、先外出て待っててください! あとはやっておきますから!」
背中をグイと押され外へ出ていく。
仕方がないので外でラクガキが終わるのを待っていた。
(あれ絶対にキスされたよな……)
思い出すだけで顔が熱くなる。
もう答えも出ている。ここまでされて何もしない訳にはいかない。
絶対に気持ちを伝えるんだ。
「翔太さん、これ渡しますね。帰ってから見てください」
小さな封筒を渡された。多分中に写真が入ってるんだろう。
確かに今開けるのは、お互いに恥ずかしい。
「じゃあ行きましょうか」
先程とは違い、自然に手を繋ぐ。
もうそこに会話はない。
だが心地いい。そんな時間が続いた。
外は少しづつ暗くなり、今日は満月なのだろうか、月が綺麗だ。
ショッピングモールの中央にある大きな噴水へと近づいていく。
ここがチャンスだと言わんばかりの、最高のロケーションだ。
足を止め、鈴音と向かい合う。
「鈴音、俺は鈴音のことが──」
「待ってください!」
言葉を遮られる。
せっかくのタイミングを失ってしまった。
「やっぱ私から言わせてください」
顔が赤く瞳は潤んでおり、手が少しだけ震えていた。
「私は、翔太さんのことが好きです! ずっと前から好きでした!」
『好き』という言葉に、痛いほど大きな脈を打つ。
どれだけ抑えようとしても鳴り止まない。
「私が魔眼の持ち主だと知っても嫌な顔をせずに話してくれたし、勉強を教えてくれるほど頭いいし、私のわがままだって聞いてくれる。そんな翔太さんが大好きです!」
鈴音の必死さが伝わる。
そこまで自分のことを好きでいてもらえて嬉しかった。
「ああ、俺も鈴音のことが大好きだ」
鈴音は泣きながら抱きつく。
周りから注目を浴びるが、そんな事は関係ない。
恋は盲目などとよく言ったものだ。
今は鈴音しか目に映らない。
「翔太さん良かったよぉ。振られたらどうしようかと思った」
「俺の気持ちに気づいただろ?」
「自惚れじゃないかなんて思ったら、自信なくなちゃって……プリクラの時も嫌がられたらどうしようかと……」
鈴音は俺以上に不安だったのだろう。
なんにせよ、デートは最高の結果で終えることが出来た。
「じゃあ、帰ろっか」
今度は自分から手を差し出す。
すると鈴音は指を絡めながら繋いできた。いわゆる恋人繋ぎと言うやつだ。
まだ慣れないが、とても暖かい。
これから鈴音と歩んでいく時間がとても楽しみだった。
────────
二人が手を握って歩いている所を遠くから眺める。
「そっか翔太先輩は鈴音ちゃんを選んだんだ。うん、それならいっか」
仕方がないよね、だって私のことを忘れちゃってるし、元の姿じゃないからね。
想いとは裏腹に涙が溢れる。
もちろん二人を祝福しているよ、けど止まらないんだ。
こればかりは仕方がない。幸せになってもらうことを望んだ結果。
ここまでが私の物語。
あなたには新たな物語が待っている。
「さよなら、ショータ」
夜空の下で一人泣き叫んだ。
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