消えていくのは幸せ、残るのは後悔
ベッドに飛び込み、天井を見つめる。
あの時、あの言葉を伝えたらなんて言ってくれるのだろう。
またいつもの様に、答えをはぐらかされるのかな? それとも、呆れるのかな?
その答えは分からない。
でも知らない方がきっといいんだ。
だって私たちは共に生きているけど、生きている世界が違う。
近くにいるのに遠い存在、それが私の心を締め付ける。
やはり言えなかった事を後悔しているのかな?
分からないよ。
あの人から貰ったイヤリングを手に取り、眺める。
皓皓たる月夜に照らされ、赤く輝いていた。
こんなに悩んでるのもやっぱり、このイヤリングのせい。
でもすっごく嬉しかった。
今の距離感がいいのは分かっているけど、それが心配になる。
「ねえショータ、私どうしたらいいんだろ」
────────
カーテンの隙間から差す光が眩しい。
今日も暖かい一日になりそうだ。
「今日は確か八時に起こすように言われてたっけ?」
まだ時間に余裕があるため、洗濯機を回して掃除を始める。
掃除機を使うとショータを起こしてしまうから、極力使わない。
洗濯物を干し終わった頃には、八時を回ろうとしていた。
「ショータ、朝だよ起きてね」
「うん、わかった」
まだ眠たいのかな、目を擦りながら起きる。
そんな彼を眺めながら、微笑む。
「それじゃあ朝ごはんの準備してくるね」
部屋を出ていき、朝食の支度を始める。
今日はシンプルにハムエッグとトーストだ。
彼が洗面所から出てくる。
「おはよう、エアリー。今日は九時になったら出かけるからそれまでに準備しておいてよ」
「今日って何があるんだっけ?」
昨日のことを思い出すけど、予定については何も聞いてないかな。
「あれ、言ってなかったか? この前の定例会の詳細を聞きに行くんだ」
「うん、聞いてなかったね」
「すまん、忘れてた」
普段はちゃんとしてるけど、たまに抜けてるとこがあって可愛い。
「ということは学院の方に行くんだね」
「その前に亜里沙を迎えに行く」
次席の
この前の定例会にいたけど話す機会はなかった。
あの子はショータのことをどう思ってるんだろう。
聞く話によると、たまにご飯を作ってあげてたらしい。
なんだろ、モヤモヤする。
もうどうにかなっちゃいそう……。
何も出来ない自分がもどかしい。
「……アリー……おーい、エアリー」
「ん? どうしたの?」
「大丈夫か? 精霊でも体調悪いとかあるのか?」
「ううん、大丈夫だよ。それよりどうしたのかな?」
心配させちゃったかな。
「そろそろ時間だから準備するぞ。片付けはしておくから」
「わかった、ありがと」
とりあえず今は目の前のことに切り替えよう。
出かける準備を始める。
「おーい、エアリー。そろそろ行くよ」
「あ、うんわかった」
────────
家を出て車へ乗り込む。
どうもエアリーの様子がおかしい。
精霊も疲れるのだろうか。
「大丈夫か? なんか元気ないけど」
「何も問題ないよ」
「そっか」
珍しく車の中でも一言も話さず、ずっと外を眺めている。
普段の様子とは違うため話しかけようと思っても何を話していいのか分からない。
いつも何話してるんだっけ……。
そんなことを考えていると亜里沙の家に着いた。
「おまたせ、今日はよろしく」
「渋谷くん、エアリアルさんもおはようございます」
「うん、おはよ亜里沙ちゃん」
亜里沙は車に乗ると空気を察して何も話さなかった。
正直空気が重い、本当にどうしたんだろうか。
昨日は普通に元気だったのに。
いくら考えたところで答えは出ない。
いったん切り替えようと思っても頭の中から離れない。
「渋谷くん、信号青だよ」
「あ、うんありがとう」
このままでは事故を起こしかねない。
完全にとまではいかないが、切り替えるしかない。
学園へ向かう時間が、いつもより長く感じた。
「おつかれ、じゃあ向かうか」
駐車場に車を停め、降りると大きく伸びをする。
運転した後にすると、頭がすっきりして気持ちいい。
「せんぱーい!」
会議場に向かう途中聞き覚えのある声が聞こえた。
「なんだ、鈴音か」
「なんだとはどういう事ですか! 私じゃダメですか」
鈴音は、頬をふくらませる。
「どういうことだよ、訳が分からん」
「翔太さんこの間の定例会凄かったですね。また強くなりましたね。こんな先輩がいるなんて誇りに思います」
鈴音は、尊敬の眼差しをこちらに向ける。
「お前からそんなこと言われると寒気がする」
「翔太さんのことを慕う可愛い後輩になんてこと言うんですか!」
鈴音が腕を叩こうとするのでそれを避ける。
「自分で言うな自分で」
相変わらずマイペースでハイテンションだ。
「横にいる人がエアリアルちゃんですか? めちゃくちゃ可愛いじゃないですか!」
「あ、うん、ありがと」
エアリーは鈴音のテンションについていけてないように見えた。
初対面でこの距離感はなかなか戸惑うだろうな。
鈴音に返事をすると、エアリーはまた表情を曇らせる。
一体今日はどうしたんだ。
「翔太さん、今日会議あるんですよね?」
「そうだが」
「じゃあ、終わったらエアリアルちゃん貸してください」
突然の事に、少しだけ戸惑う。
「俺はいいけど……エアリーはいいのか?」
「うーん、大丈夫だよ」
「じゃあ会議終わったら連絡くださいね。それじゃあ」
鈴音はものすごい勢いで校舎の中へと入っていった。
いつも突然現れて、突然消えていく。
「それじゃあ改めて向かいますか」
会議場まではそれほど距離はない。
第五会議場は大人数での会議などを行う施設だけに、中はとても広い。
中には既に、関係者が百人以上いた。
その中から五条を見つけ出す。
「五条さんどうも」
「渋谷か、悪いな連絡が遅くて。
「いえ、昨日は暇してたので大丈夫です」
「私も当然の仕事なので、大丈夫ですよ」
「今日はよろしく頼む」
五条と別れて空いた席に座り、対策会議が始まるのを待つ。
「こちらこそお願いします」
十分後、対策会議が始まった。
「今回の殲滅作戦を担当する五条勇輝だ、本作戦は常に生死が隣り合わせだ、自分のミスが他の人間を巻き込むことを忘れないようによろしく頼む」
五条が挨拶をすると、一気に場の雰囲気が引き締まる。
今回の相手はテロ組織であるため、生半可な気持ちでは務まらない。
それを改めて実感する。
今回集まった人間は、皆エリート達だ。
特に五条が率いるチームは、五条が頭脳として動く一種の軍隊みたいなものだ。
今まで任務を失敗したことがないのはもちろん、五十もの人を従えているにも関わらず、死者はおろか怪我人すら出したことが無いと聞く。
「作戦決行日は四日後の深夜二時だ、今回は四部隊編成で行く。作戦概要は各部隊分かれしだい、隊長から説明があるだろう。それが済み次第、全体会議となる。以上」
それぞれ自分が配属される部隊へ移動していく。
内容も配属される部隊も知らないため少し困惑していた。
「渋谷と十、お前らはこっちだ」
案内されたのは五条率いる先鋭部隊だ。
数々の任務をこなしてきただけあって少し殺気立っていた。
「今回こちらの部隊に配属された渋谷だ。実力に関しては俺が保証する」
「渋谷翔太です。本日からよろしくお願いします。」
「十亜里沙です。よろしくお願いします」
挨拶を終えると隊員が次々と挨拶をする。
思いのほか歓迎されているようだ。
「自分は当日どうすればいいですか?」
「今回は俺の部隊の援護に回ってもらう。まあ最後の砦みたいなもんだ。集合時間は深夜十二時になる。場所はここだ。」
机に地図を広げると、赤い丸がしてある部分を指す。
「場所はここの港あたりだ。うちの部隊は信頼出来る。油断は禁物だが、そこまで緊張することも無い」
「敵の規模は?」
「敵の数は約百人だ、そのうち半分が魔術師だろう。と言っても我々の相手ではない。今回は組織壊滅だが、組織の人間は生きて連れてこいとの事だ」
組織内には魔法を使えないものも多いらしい、そのため実力だけで言えばこちらのほうが何枚も
「なるほど、わかりました」
「あと何か聞きたいことは?」
「敵の組織名とリーダーの名前などは判明していますか?」
「組織名はラ・リベルタ、日本のみならず海外にも展開している組織で、日本のリーダーは
犬養誠は、もともと海外のマフィア組織に所属していた人物で、数年前に日本へと帰国してきたらしい。
魔術師としての腕はそこそこあり、Sランク魔術も使えるという噂だ。
「わかりました、あとは大丈夫です」
「それじゃあ終わりだ。頼んだぞ」
「了解しました」
五条の説明が終わると全体会議が始まり、全てが終わり解散するのはそれから五時間後だった。
一通り挨拶を済ませると、会議場を後にする。
鈴音に終わったと連絡をすると、五分で会議場入口にやってきた。
「あ、翔太さん思ったより早いんですね」
「結構時間かかったと思うが」
五時間も会議をしてたんだ、さすがに疲れる。
「そうですか? いつもなら八時間くらいやってますけどね」
「まじかよ……」
あの会議を八時間なんて、とても耐えれない。
そもそもそんな時間使って何をするんだよ。
「エアリーとも再開したし、こんな俺が参加しないといけない作戦だから、もっと危ないかと想像してたけど、まさかの後方支援だったよ」
思わずため息が出る。
「まあいいじゃないですか、こうして顔合わせれたんですから。じゃあ、エアリアルちゃん借りますよ」
エアリーは鈴音に連れていかれた。
「亜里沙さんも行きますよ」
エアリーだけでなく亜里沙も連れていかれた。
女子会に参加するのも野暮なので、しばらく車の中で待つことにする。
────────
亜里沙とエアリーを連れて、学内のカフェに行く。
全国にあるチェーン店で生徒に人気が高く、個室も完備されていてよくプチ女子会が開かれる。
個室が空いていたので、席に座る。
「ねえ、エアリアルちゃん、私もエアリーって呼んでもいい?」
「うん、全然大丈夫だよ」
初対面の私が見ても分かるくらいに、元気がない。
「ありがと。あのさ、聞きたいことあるんだけど、エアリーって先輩のこと好きだよね」
「ななななな、なんでかな」
突然のことに、頬を真っ赤に染め上げ動揺する。
もともと肌が白いため、なお目立つ。
「いや、バレバレでしょ。多分亜里沙さんも気づいてるよ」
「私は全然分からなかったです」
思わず目を点にする。
私より長く一緒にいたのに気付かなかったのかな?
「あれ? そうでしたか。とにかくなんか落ち込んでるけど何かあった?」
「ううん、何も無いよ」
エアリーは、軽く首を横に振る。
それが嘘なのはすぐに分かった。
翔太のことで悩んでいるのは間違いない。
「先輩の事ですか? もうバレバレですよ。精霊っておしとやかで、なんでも知ってる感じかと思ってたんですけど、案外普通ですね」
エアリーはずっと俯いている。
精霊ということを知らなければ、普通の女の子だ。
私たち人間と何も変わらない。
「で、何があったんですか?」
少しの沈黙の後に、エアリーが口を開く。
「実は……ショータに告白をしようとしたんだよ」
「ほう」
そこまで積極的だったのは意外だった。
「ただ、言おうとしたら電話が鳴っちゃって出来なかったんだ。そこで気づいたんだよ、精霊がそんなことをしてはいけないって。そう思い始めてからモヤモヤすることが多くなってきて」
エアリーは再び俯く。
「そもそも、精霊が人間に恋しちゃダメなの?」
「ううん、そんなことはないと思うけど……やっぱりショータの事を考えると、引いた方がいいのかなって。でもショータの隣に他の子がいたら素直に祝福できないと思う」
エアリーは肩をすぼめる。
目の前にいるのは恋する乙女そのものだった。
話を聞いている側も胸を締め付けられる。
「別に引く必要なんてないんじゃない? 精霊なんて関係無いよ。突撃あるのみ!」
「そうかな……」
「振られてもいないのに諦めちゃダメだよ!」
まだ決心がつかないのか、エアリーの心には迷いがある。
翔太さんを見る限り、結構脈ありだと思うんだけどなー。
「じゃあエアリー告白しないなら私がするよ。いい? 成功しても後悔しない?」
「それは嫌!」
エアリーは両手で机を叩き、立ち上がる。
床に擦れる椅子の音が響く。
「じゃあ、答えは出てるじゃん。早く行ってきなよ」
「うん、でもいいの?」
椅子に静かに座り、尋ねる。
「何が?」
「鈴音ちゃんはショータの事好きなんじゃないの?」
エアリーは首を傾げ、こちらの様子を伺ってくる。
「そんなことないよ、ただの尊敬する先輩ってだけ。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「そっか……ありがと。じゃあ私ショータのとこ行かなくちゃ」
「うん、頑張ってね」
エアリーは走って翔太さんの元へ向かった。
その後ろ姿を見つめると、涙が零れそうになる。
鼻をすすりそれをグッと抑える。
「あれ? 亜里沙さんは行かないんですか?」
「行ますよ、でも鈴音さんは大丈夫ですか?」
「何がかな?」
亜里沙の言葉を誤魔化すように、首を傾げる。
「鈴音さんも渋谷くんの事が好きだったんじゃないんですか?」
普段からそういう話は疎く、エアリーの様子にも気づいていなかったにも関わらず、こういう時だけ鋭かった。
「いや、あんな姿見せられちゃね……」
必死に抑えていた一粒の涙を零してしまう。
短くて儚い私の初恋。
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