再開と加勢
「というのが渋谷翔太の正体だ。あれから五年も経つんだ、彼もかなり成長していると思うぞ」
議長の麗子が話を終えると、「精霊契約かよ」、「大丈夫なのか」と、様々な野次が飛んでくる。
するとその中で、一人の男性が手を挙げていた。
札を見るとそこには、
十二代目首席で卒業した生徒で、現在は二年に一度行われる魔法競技会の選手として活動している。
魔法を使ったオリンピックみたいなものだ。
彼はその選手と言うだけあって、いかにもスポーツマンといった体格をしている。
身体強化の魔法が得意なため、護衛任務などもしており、彼の部下は五十人ほどいるらしい。
「どうした五条」
「はい、はっきり言いますがそれがどうしたんですか?」
五条は淡々とした口調で、話していく。
「おいおい、随分冷たいじゃないか」
「今さら、のこのこ現れた奴の事情を聞いて何になると?」
「まあお前の言い分もわかるが少し待ってろ。今からそれを説明する」
「わかりました」
そう言って席に着く。
確かにすぐには納得出来ないだろう。
「まず今回の議題に入ろう。質問はそれからだ」
さすが議長だけあって、進行に淀みがない。
他の首席が、この人について行くほどの人望があるのも、このやり取りだけでわかる気がする。
「内容はだな──」
内容は、最近日本国内で活発化しているテロ組織の件についてだ。
五年ほど前から、活動を始めている彼らの目的は主に、魔法による国の支配だ。
そんなものが当然叶うわけもないがここ近年彼らの動きが目立ちつつある。
魔法乱用による建物の破壊やデモ活動、中には誘拐をして人体実験をしているという噂もある。
今回こうして呼び出されたのは、そのテロ組織の殲滅部隊に加勢して欲しいとの事だった。
「ということだ、内容は理解出来たかな?」
「質問があります」
手を挙げたのは九代目主席の
彼女は父の会社の手伝いをしつつ、日常生活で利用出来る魔道具の研究を行っている。
会社は日本でもかなり大手の電機メーカーであり、根っからのお嬢様気質だ。
だが、金と魔法技量でしか人を図れない人間というのが、彼女の嫌な部分である。
「殲滅部隊に加勢と仰っていましたが、そのようなことがこの男に可能なのですか?」
「私は可能だと思っている。学院長もそれには賛成しているぞ」
「しかし精霊との契約は、解除したじゃないですか」
呆れたような声で物申す。
「それに関しては大丈夫だ。今日、会議が終わり次第契約をしてもらう」
「それでも精霊と契約しないと、使い物にならないくらい弱いってことですよね?」
いちいち人を小馬鹿にしてくるところが鬱陶しい奴だ。
麗子は、香織の質問に対して鼻で笑う。
「いや、翔太は現段階でも首席会でトップクラスだぞ」
「はあ? だってさっき魔力制御がままならないと仰っていたじゃないですか」
鼻で笑われたことに対して、少しイライラしているように見えた。
これは亜里沙から聞いた話だが、二人は二年くらい前から仲が悪いらしい。
「お前は馬鹿か、それは七年前の話に決まってんだろうが」
二人の会話の間に入ってきたのは、
何かと気が短く、学院を卒業してから、何度か喧嘩騒ぎを起こしたらしい。
現在は首席会から配属された、防衛隊の隊長を任されている。
「あんたこそうるさいわね、そんなことわかってんの。私は今の実力が知りたいって訳」
「うるせえな、じゃあ最初っからそう言えっての」
「そっちが先に出しゃばってきたんじゃん」
「黙れ! ババァ!」
「うるさいこのくそヤンキー」
いつしか場内は、二人の口喧嘩になっていた。
「おい、お前らうるさいぞ。次騒いだ奴は退場な」
麗子が威厳のある声で、場を鎮める。
「まあ、確かに香織が言うことも確かだ。そこでだ、翔太には今の実力を皆に見せてもらおう」
「どうやってですか?」
「なんでもいいぞ、射撃でも魔力測定でも模擬戦でも構わん」
「じゃあ、SSランクの魔術でいいですか?」
席を立つと、場内の前方へ歩き出す。
そのあまりにも無謀だと思われる発言に、場内がざわめく。
SSランクを発動できる魔術師は、世界に五人程しかいないと言われている。
驚くのも無理はない。
「構わんが、大丈夫か? けが人を出すんじゃないぞ」
「大丈夫です、問題ありません」
まずは人を巻き込んだり、会場を破壊しないように結界を貼る。
もちろん出力を抑えることはできるが、万一のためだ。
『我ら 恐るるは 漆黒の闇 万物を飲み込む力として 我らの前に 顕現せよ』
「ほう
麗子は感心しながら頷く。
そこに現れたのは、小さなブラックホールだった。
光を反射しないほどに黒く、飲み込まれてしまえば最後、二度と地に足を着けることができないだろう。
「まさかこの魔法が使える人間がいたとは、驚いたな」
さすがの五条も、少し驚いている様子だった。
「これでいいですかね?」
「もちろん大丈夫だ、真司も香織もこれで十分だな」
二人とも納得いったのか、何度も頷いていた。
「相変わらずショータの魔力はすごいね」
その存在に、場内が再びざわめく。
後ろから懐かしい声がする。
振り返るとエアリアルが小さく手を振っていた。
「やっほー、久しぶり元気してた?」
「エアリアルこそ元気だった?」
「だからエアリーって呼んでって言ってるじゃん」
この会話も懐かしく感じる。
「というかなんでここに? 学院長のところにいたんじゃないの?」
「学院長が、もう行っていいって。それよりもすごいね、これならイヤリングのことも───」
言いかけたことを口を手で抑え止める。
「ごめんやっぱなんでもない」
乾いた笑いとともに、下をむく。
「イヤリングの事でしょ、覚えてる……いや思い出したと言った方が正しいかな」
「あれ? なんで覚えてえてるの?」
エアリーはこちらをむくとキョトンとしていた。
「魔力制御が前より上がったからね、自分に何かしらの魔法がかかってることに気づいたんだよ」
「そっか、暴走しなかったんだ」
エアリーは、安どの表情を浮かべる。
「まあ、五年前のことは悔しいけど、少しは自分をコントロールすることができたからね。そういえば──」
「二人とも悪いがまだ会議中だ、後にしてくれないか」
麗子に注意を受けるとエアリーと一緒に席に戻る。
「まあ二人の再会は置いといて、これで翔太の実力に関して不満があるやつはいないな」
場内から拍手が沸き起こる。
「それでは、この件に関しては五条に指揮をとってもらう」
五条は返事をすると、席を立つ。
「了解しました。詳しい内容や、作戦実行日に関しては後日連絡します」
「それではこの件に関してはここまでだ。次の議題に入ろう──」
そのあとは今年度の予算の振り分けや魔法研究の発表会の日程の確認、それぞれの首席の持ち込んだ案件などの整理を行っていた。
今まで参加していなかったためほとんどの内容がわからなかったため、とても退屈な時間を過ごしていた。
会議が始まってから三時間、ついに地獄の定例会が終わった。
最後の方は重い瞼を上げるのが精一杯だった。
「以上で前期定例会を終わる、解散」
麗子の挨拶で閉会した。
「お疲れ亜里沙、このあと用事があるからここまでで大丈夫だ。今日の話に関してはまた後日話すよ」
「わかりました。お疲れ様です、渋谷くん」
そう言って亜里沙は帰って行った。
「エアリーちょっと悪いけど学院長のとこに行くわ、家に帰って適当になにか作っといて貰えない?」
「わかったーじゃあ先帰ってるね」
「それじゃあ」と一言挨拶をしてエアリーと別れて学院長の元へ向かう。
エアリーと別れた瞬間少しだけ頭痛がした。
彼女の背中を見送ると、とある場所に向かう。
五階ある建物の、最上階を階段で登っていき、長い廊下の奥の扉をノックする。
「学院長、渋谷翔太です」
「ああ、翔太くん? 入っていいよ」
「失礼します」
ここに来るのも久しぶりだった。
相変わらず年齢よりも、若く見えた。
「久しぶりだね、元気してた?」
「まあぼちぼちです、学院長のおかげでスキルアップも出来ましたし」
ここまで魔力制御ができたのも、学院長のおかげだ。
「それは良かった。で、今日はどうしたんだい?」
「学院長はイヤリングの事知ってるんですよね、あれについてどう思いますか?」
学院長の表情が一瞬、険しくなったように見えた。
「それはエアリアル君に聞いたのかい?」
「いや、去年くらいに自分に何かしらの魔法がかかっているのに気付いて、それを解除したら記憶が戻りました」
「ほう、エアリアル君の術式を解除したのかい? さすがだね翔太くん」
学生時代の時からそうだが、その余裕な態度で褒められてもいまいち実感が沸かない。
本当はどう思っているのか、いまいち要領が掴めない人だ。
「で、どうなんですか?」
「僕も詳しく調べようと思ったんだけどね、検出できた魔力が微弱すぎてなかなか判明できなかったんだよ。一つだけわかってるのは敵はそう遠くにはいない事かな」
「それはなぜ?」
「このイヤリングから検出された魔術痕には東南アジアの暗殺部隊が使用していた術式と同じ魔力を感じたからね」
「東南アジアですか……わかりました」
東南アジアの流出ルートを知れれば、ある程度は絞れる。
「今日はそれだけかい?」
「いや、もう一つ少し前に佳奈に会ったんです」
「佳奈君って、死んだ妹さんったよね」
頷いて答える。
「でも現段階では蘇生魔法など……幻影魔法ではなかったんだね」
「そのような痕跡はありませんでした」
今でも鮮明に思い出せる。
確実に、幻影魔法ではなかった。
目の前に現れた佳奈には、間違いなく人間としての生命が感じられた。
「うーん、すまない。現段階で答えられることはないかな」
「わかりました。また何かあったら教えてください」
「わかったよ、何かあったらすぐ連絡するよ」
学院長に挨拶をして家へと向かった。
帰る時には、先ほどまでの頭痛は治まっていた。
────────
「ただいまー」
リビングのドアを開けると、エアリーが夕飯の支度をしていた。
キッチンから料理の匂いが漂う。
「おかえりー、学院長センセとは話せた?」
「うん、そのことについてだけど後で時間とれるかな?」
制服を脱ぎ、ハンガーにかける。
「もちろんショータのためなら」
「そういうのはいいから」
自分の部屋に戻ると、着替えを取り、風呂へと向かう。
風呂に入っていると、すりガラス越しにエアリーの姿が映っていた。
「ショータたまには背中流そっか?」
「大丈夫、入ってこなくていい」
「ええー、いいじゃん久しぶりの再会なんだからさ」
「俺は嫌なんだ」
「ちぇっ、ケチー」
五年間、家の中では、ほとんど一人だったので、他愛ない話も少し嬉しかった。
「もうすぐお風呂出るかな? ご飯の用意するけど」
「じゃあそろそろ出ようかな」
「了解」
ここ最近は、自炊することもなくインスタント食品か、たまに亜里沙が持ってくるご飯を食べてたくらいだ。
エアリーの作った料理を食べるのも、久しぶりなので楽しみだ。
リビングに向かうとそこには、豪華な料理が並んでいた。
「今日はからすみのパスタにサーモンのカルパッチョ、あとはスーパーのフランパンが美味しそうだったからカナッペにしたよ」
どれもとても美味しそうだ。
今日はあまりご飯を食べてなかったのでとてもお腹が空いてる。
「じゃあ、いただきます」
久々に食べたエアリーの料理はとても美味しかった。
エアリーに心の中で感謝しながら食事を進めた。
「ごちそうさま、美味しかったよ」
「そう? そりゃよかったよ。そういえば話あったんだよねどうしたの?」
「今日イヤリングのことについて聞いてきた」
「ふむふむ、どうだったかな」
今日、学院長と話した内容を、エアリーに全て話した。
「なるほど、にしても佳奈ちゃんに会ったなんて……」
「それに関してはまだ検討はつかない」
「蘇生術は現段階ではほぼ不可能だもんね」
「これから情報を集めてくしかないな」
「そうだね、こっちの方でも少し調べておくね」
結局、エアリーとも検討してみたが、答えを導き出すことはできなかった。
「今日は疲れたでしょ? 片づけはやっておくよ」
「そうだな、おやすみ」
「うん、おやすみなさい」
挨拶をすると、自室へと戻る。
佳奈の事やイヤリングの背景など気になることはいっぱいあるけど今はとりあえず寝よう。
なんだろう、何かを間違えてる気がする。
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