魔力量とその制御①
行きがけに見かける梅の蕾はまだ固く、当分開くのに時間がかかりそうだ。
今年は寒波の影響で、三月になってもまだコートが手放せない。
今日は国立魔法機構学院の入学試験日だ。
皆緊張しているせいか、空気がヒリついているのを感じる。
受験人数は、毎年三万人を超えることが多い。
世界でまだ六校しかない魔法学校のため、海外からの受験者も珍しくない。
そしてその中で入学できるのは約二千五百人。
と言っても、合格者はその年の平均点などで、多少前後することがある。
四年前には優秀な受験生が多く、異例の五千人の入学者が出たらしい。
つまり、入学者数=その年の受験者のレベルという図式ができるわけだ。
そして、翔太もそのうちの一人であった。
「受験番号七八六番、渋谷翔太です」
「······渋谷さんですね、ファイルの中に今日のスケジュールと学園案内が入っています。最初の試験会場は魔法工学棟の第七教室です」
「ありがとうございます」
受付を終えると案内を確認しつつ、会場へと向かった。
試験内容は、大まかに筆記、実技、面接の三つだ。
筆記では、大学レベルの一般教養、魔法に関する基礎知識が問われる。
魔術学校では、一般教養に関する勉強は一切行わないため、最低限の知識を自分で学ばなければならない。
もちろん魔法に関する基礎知識も、自身での勉強が必要なのだ。
実技は魔力量や魔力制御、発動速度などが主な採点基準となる。
面接は、卒業した後どのように魔術業界を発展させていくかなどを聞かれる。
在り来りな返答をしておけば大して問題ではない。
やはりこれから魔術師として活動していく以上、一番重要なのは、どれだけ高度な魔術を扱えるかに限る。
つまりこの試験に置いて、一番重要視されているのは実技だ。
知識は、あとからどれだけでも着いてくる。
魔術に関する知識だけで合格しようとするのであれば並大抵の人間じゃ厳しい。
過去にそれで合格した人間は、三人しかいなかったと聞いている。
「第七教室ってここでいいんだよな」
教室の中に入ると、ほとんど席は埋まっていた。
試験開始二十分前で時間があるため、復習をしている人が多い。
自分の席に着くと、机の上に突っ伏す。昨日は遅くまで勉強したおかげで、睡魔が襲ってくる。
もちろん徹夜まで勉強をする必要はなかったが、どうしても試験前になると不安になってしまう、受験者のよくある心理だ。
試験開始十分前になると全員が席につき、五分前には試験官が到着し、試験の準備が行われていた。
「試験開始」
試験官の合図とともに始まった。
試験時間は三時間あり、その間休憩は一切行わないためとてつもない疲労感に苛まれる。
問題数はその年によって変わるが、今年はおよそ五百問といったところ。
昔から魔法学校に入学しようとしていたため、そこまで苦ではなかった。
そして三時間後、試験が終了した。
問題自体自分にとってはそこまで難しくなかったため、余裕をもって合格できるだろう。
「約一時間後の十四時に実技試験を行います。それまでは昼休憩とするので、くれぐれも次の会場に、間に合わないことがないようにお願いします」
会場を後にし、校内にある食堂へと向かって昼休憩を取り、その後次の試験会場である第三魔法実技棟へと向かった。
会場内には既に千人程の人が集まっており、それぞれ自分の出番を待っていた。
試験内容は、魔法で撃ち落とすクレー射撃と魔力測定の二項目だ。
一人あたり五分ほどで終わる簡単な試験である。
しかし、この試験の基準値を満たさない受験者は、その場で不合格を言い渡される。
そのため、毎年この試験で約半数以上の生徒が落とされていた。
実技試験が開始し三十分が経過した。
試験をパスできたのか安堵の表情を浮かべる者もいれば、肩を落とし会場を後にする人もいた。
「受験番号七八六番、渋谷翔太」
試験官に呼ばれ会場内へと向かっていった。
「それでは試験を始めます。準備はいいですか?」
「はい、大丈夫です」
一呼吸置いて返事をした。
「それでは始めっっっ!」
試験官の合図と共に場内のサイドから五つ的が発射される。
それらを発射されたタイミング、速度、的の大きさを冷静に判断し処理していった。
それらを破壊し終わると息付く暇もなく次の的が発射される。
三分間、ひたすら行われ、試験が終了した。
一つも撃ち漏らすことなく、満点で試験を終えることができた。
「それでは隣の部屋で魔力測定を行ってください」
隣の教室に行くと、大きな水晶玉のようなものが置かれている。魔力測定器だ。
測定器の上に手をかざすと、そこに魔力を流し始める。
すると、試験官の顔が少しだけ驚いているように見えた。
「お疲れ様でした。それでは面接会場へと向かってください」
そう試験官に告げられ、面接会場へと向かっていった。
会場に向かう途中、学院の職員であろう人に声をかけられる。
「渋谷翔太くんだよね?」
「はい、そうですけど」
「悪いけど君は面接を、別会場で受けて欲しいんだ。ちょっと着いてきてもらえる?」
「わかりました」
そして職員に案内された場所は学院本館の最上階、校長室であった。
「ちょっとだけ外で待ってもらえる?」
そう言うと職員は学院長室へと入っていき、一分もかからないくらいに中へと案内された。
「失礼します」
校長室の中には大量の本棚が壁一面にあり、そこには無数の本が綺麗に並べられていた。
入口を入って少ししたところに来客用のソファーと、それにちょうどいい高さのテーブルがあり、その先には学院長の、木製の大きな書斎デスクが置かれていた。
学院長ペットなのか、窓際にはフクロウが寝ている。
「初めまして、渋谷くん。ここの学院長の如月
「初めまして」
挨拶し一礼する。
視線の先には、髪が背中くらいまである銀髪の男性が窓から学園の様子を見ながら立っていた。
魔力がとてつもない量であるのが、そのオーラから感じられる。
学院長といえばもう少し年老いた感じをイメージしていたが、見た目は三十代くらいに見えた。
「試験ご苦労さま。手応えはどうだったかな? 君には簡単だったかな?」
「まあ何とか、それより自分を呼び出したのはどうしてですか?」
「君の魔力量って言ったら、分かるんじゃないかな」
鷹司は視線を合わせ、ニヤリと微笑する。
「なんのことですか?」
「とぼけなくてもいいよ。君には人間以外の魔力が混じってる。精霊と契約してるでしょ?」
学院長だけあってやはり魔法に関する知識や経験は長けていた。
隠すだけ無駄だったか。
「はい。幼い頃から魔術と精霊の勉強をしていて、その時にエアリアルと契約しました」
「ほう、エアリアル······」
学院長も少しだけ驚いているように見えた。
エアリアルとは空気の精霊と言われており、四大元素を自由に扱うことができる存在と言われている。
魔力量は数ある精霊の中でもトップクラスであり、契約はとても困難極まりない。
「どうしてエアリアルと契約を?」
「元々魔法に関する基礎感覚が鈍く、その原因を探ったところ、魔力制御の器のほとんどが精霊との契約により力を発揮できることが判明し、その器に合う精霊がエアリアルだったので契約を」
淡々と経緯を説明していく。
「でも相当大変だったんじゃない?」
「いや、それほど大変じゃなかったですよ。なんなら簡単でした」
「それはどうして?」
「······それはあまり言いたくないです」
少しだけ説明しようか悩んでしまった。
理由を知らない訳では無い。
しかし、自分んで言うのは恥ずかしい。
それに、学院長ほどの人が信じてくれるかどうか······
「それはね、私がショータに惚れたからだよ」
その声の主は自分でも学院長でもない。
「あー······ちょっと待ってね」
そう言うと声の主は突然、背後に姿を現す。
「どうもどうも、こんにちは学院長センセ。エアリアルだよ」
姿を現したのは見た目は高校生くらいで明るい黄緑の長い髪に、エメラルドのような瞳、鼻のラインが整っていて、どちらかと言うと綺麗な顔立ちをした女の子がたっていた。
そして何故か学校の制服を着ている。
「どう? ショータ、似合ってるでしょ」
袖を引っ張り、こちらを見てと言わんばかりの上目遣い。
「今学院長と喋ってんだけど」
「えーいいじゃん。最近受験勉強とか言って相手してくれなかったんだから」
「頼むから後にしてくれ⋯⋯」
二人のやり取りを見て学院長が破顔した。
「いやいや、二人とも仲がいいんだね。惚れたって言ってたけど彼のどこが良かったのかな?」
「それはやっぱりすごい魔力量だもん。確かに使える量は少なかったけどショータの中にある魔力量は人間離れしてるからね。あとはやっぱ顔かな」
と言ってエアリアルは顔を赤らめる。
「学院長、エアリアルの話はいいんで結局魔力量がどうしたんですか?」
あまり学院長に聞かれたくなかったため話を戻す。
「あーごめんごめん、話を戻そうか。単刀直入に言うと学院内では魔力出量を抑えてくれないかな?」
「魔力出量ですか······」
「やはりこれほどの人材が学院内にいると知られると、それを利用しようとする輩が出てくるからね」
「なるほど······」
「どうかな、お願いできないかな? こちらとしても君の安全を保証できない」
確かに、それはあるかもしれない。
精霊契約をする魔術師は少ない、しかもそれがエアリアルだ。
間違いなく注目を受けるだろう。
「わかりました」
「エアリアル君もそれでいいかな?」
「ショータがいいと言うなら私は大丈夫だよ」
そう言いエアリアルは、サムズアップをする。
「よし、これで面接試験はいいよ。試験はこれで終了。翔太君は合格で結構、今日は帰っていいよ」
「ありがとうございます。それでは失礼しました」
一礼をして、校長室を後にした。
「良かったねショータ、合格だってねおめでとう」
エアリアルはスキップしながら祝福をする。
「学院長に変な事言うなよ、今日は疲れた······」
「うんうん、ごめんね。じゃあ帰ろっか」
エアリアルは軽い返事をする。
これは絶対に分かってないやつだ。
他の生徒に存在を知られてはまずいため、彼女は姿を消し帰宅する。
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