定例会
家から車で二十分かかる、国立魔術機構学院に向かう。
その間、一切亜里沙との会話はないが、これはいつも通りだ。
彼女は、窓から見える景色を静かに眺めている。
なんというか、その姿が少し様になっている。
基本的に亜里沙は受け身で話を聞くことが多いので、自分から会話を始めることはあまりない。
最初の頃は慣れないため、とても気まずく感じたが、今となってはもう慣れた。
「ここに来るのも久しぶりだな」
「渋谷くんにとっては久しぶりですね」
車を駐車場に停め、降りる。
亜里沙が車から降りたのを確認すると、ドアハンドルに手をかざして鍵を閉める。
駐車場は、約三千台の車が停められ、その規模に学生時代の時は少し驚いていた。
「定例会って大会議場でよかったっけ?」
「そうです、あそこですよ」
亜里沙が指さす方を見ると遠くに、横に長く白い大きな建物が見えた。
視線を下ろすと、駐車場から会議場に繋がる、長くて広い道が一直線に続いており、その距離に少し絶望した。
気だるそうに歩いていると、すれ違う生徒達が、もの珍しそうな顔でこちらを見てくる。
中には「あれって、渋谷先輩だよね」と、微かに聞こえる声で会話している人もいた。
普段参加しない奴がいるため、珍しく感じるようだ。
それに関しては否定できないし、気にもなる。
ただ、俺の願望としては、ほっといて欲しい。
などと考えていると、後方から誰かに呼ばれたような気がした。
「おーい! 翔太さーん!」
やはり呼ばれている、聞き覚えのある声だ。
後ろを振り返ると、一人の女性が軽く敬礼をしながら「こんにちは!」と、挨拶をする。
「やっぱり翔太さんですよね、元気でしたか?」
「鈴音か、久しぶりだな」
髪はいつもポニーテールで、艶のある黒髪。
目は切れ長で大きく青色の綺麗な瞳、右目には魔法陣が刻まれている。
上はパーカー下はスウェットパンツと、動きやすい格好をしていた。
性格はとても明るく接しやすいが、それは距離の近い人間だけの話。基本的には人見知りと、本人が言っていた。
「ところで翔太さん、こんな所に来て何してるんですか?」
「定例会だよ、定例会」
それ以外に何があるんだよ。
呆れながらそう返す。
「翔太さんが参加するなんて珍しいですね、強制参加ってとこですか」
「まあ、そんなとこ」
さすがに、今まで参加してこなかった人が来るということは、それしか理由が考えられないよな。
きっと鈴音だけじゃない、すれ違った生徒たちもそう思っている。
「このあと授業ないので、見に行きますね」
「でも、傍聴権があるのは学年十位以内の人間だけだろ? 下から数えた方が早いお前じゃ入れないって」
「何言ってるんですか、いま次席ですよ。あれ? 言ってなかったですか?」
小首を傾げる鈴音。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
あまりに突然なことで、声を荒らげてしまう。
翔太の叫びに周りの視線が一気に集まり、思わず赤面する。
「え、ちょ、いや待てよ、次席ってなんかの冗談?」
「いや、ガチです。ちゃんと勉強してますからね」
「いやいやいやいや、ありえない」
信じてもらえないのが不満なのか、鈴音はポケットから赤いリボンが着いた、金色に輝くブローチを取り出す。
それは学年五位以内の生徒に渡されるブローチだった。
にわかに信じ難い光景だ。
「それ、誰から盗んだ?」
「盗んでないですよ!」
「いや、マジありえない、明日地球滅亡するぞ」
「そこまで言うんですか……」
あまりの言われっぷりに、鈴音は少し落ち込んでいた。
「渋谷くん、相川さん、そろそろ時間ですよ」
隣で話を聞いていた亜里沙が、二人に声をかける。
携帯を開くと、定例会が始まる二十分前だった。
「じゃあ翔太さん先に傍聴室行ってます」
鈴音と別れ、会議場の受付で手続きを行い、中に入っていく。
木造の内観からは、厳正な空気が漂っていた。
扉を開けると先に到着していた人達が、一斉にこちらへと振り向く。
自分の顔を見るや否や、睨みつける人もいた。
それも当然だ、彼は今まで一回も会議に参加していないにも関わらず、平然と姿を現すため、自分のことが気に入らない人ばかりなのだ。
そんな事も気にせず、自分の席へとまっすぐ向かい、机の前に置いてある名前の書いてある札を立てた。
とはいえ初めての参加だ、不安であることも事実だ。
それから十分後、神崎麗子が会議場に入る。
周りを見て一礼をすると。
「これより定例会を始める」
凛とした挨拶とともに、定例会が始まった。
「それでは本題に入る前に、一つ説明しなければならないことがある」
静まっていた会場が少しだけざわつく。
「皆が知っている通り、今日は渋谷翔太が参加している」
会場の視線が、議長である麗子からこちらに、ちらほら向けられる。
「彼は卒業して以来、一度も定例会に参加していない。が、今回はある理由があって強制参加させた。それをこれから皆に伝えよう」
再び麗子の方へと視線を向ける。
「これは七年前の話だ······」
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