第2話 願いはただひとつ
「んう……」
光が差し込んできて、目を開ける。いつの間にか眠っていたみたいだった。まだ眠気はあるけれど、私は起き上がってベットから降りる。
昨日の今日でまだ実感が湧いていないが、10年という時は長い様で結構あっという間だ。これからどうするかという方針(目標)は決まったから、それを叶えるためには計画を立てなければならない。
「真緒梨っ……!?」
バンっと部屋のドアが勢いよく開く。視線を向けると、額に汗を滲ませたお父様が肩で息をしながら固まっていた。
「え。お父様……?」
こてんと首を傾げれば、お父様は目に涙を溜めながら私を抱きしめた。久しぶりのお父様は、なんだか少し痩せていて、仕事が忙しいのだとわかった。
「嗚呼、ごめんね真緒梨……。結局仕事を終わらせるのに2日もかかってしまった。残った仕事は、天峯に回しておいたよ。アイツは一度、私に言わずに真緒梨に会いにいったからな。仕返しだ。……遅くなってしまってすまなかった。寂しかっかだろ?」
「だ、大丈夫ですよ、お父様!李王兄様が一緒でしたから。ほら、見てください。もうこんなに回復して、元気いっぱいです。熱だって下がりましたし……あ!それより朝ごはんを皆で食べましょう!それと……、天峯お兄様も大変なんですから。あまり頑張らせ過ぎない様にしてくださいね?」
落ち込んでいる様子のお父様の背中をさすりながら、なるべく明るい声を出す。
本心を言えば、ここ最近は全くと言っていいほど食事を一緒にすることがなく、寂しかったのだ。できることなら天峯お兄様も一緒に家族3人ではなく『4人』全員揃って朝ごはんを食べたかった。でも、我が儘は言っていられない。こうして仕事を詰めてお父様でも帰ってきてくれたんだ。それだけでも、充分満足しなければ。
_____ゲーム内の真緒梨が、そして今の私が猫被りをしていたのは、愛されたいと……そう、思っていたから。
お母様は、私が産まれたときに亡くなったと使用人達が話しているのを聞いたことがある。お母様がいなくて寂しいという感情は、なくもない。でも、私にはお父様がいて、2人のお兄様もいる。お父様はもちろん、2歳差の李王兄様と14歳差の天峯お兄様は長女で末っ子だからか、私のことをすごく可愛がってくれていた。
『Love lover』の世界の真緒梨は、それがどれだけ幸せなことか、わかっていなかったんだと思う。
ああ、なんだか……前世を思い出したことによって精神年齢が格段に上がった様な気がするのはきっと気のせいではないだろう。
「そうだね。よし、今度は家族全員でどこかに旅行でもしに行こうか。アメリカか?フランスか?ああ、真緒梨が行きたがっていたマレーシアか?!パパ仕事頑張って時間たくさん作るからなー!でも今日は、真緒梨は病み上がりだからな。李王も一緒にご飯食べて無理しない様にな」
「はいっ……!」
お父様と手を繋ぎながら部屋を出る。身体は本当に熱昨日までが出ていたのかと思うほど軽かった。
「父上、帰ってこられていたんですね」
既に食事の席に座っていた李王兄様は、お父様を見るなり嬉しそうに笑みを浮かべながら言った。
テーブルの上には、既に美味しそうな料理が用意されている。
「李王、元気だったか?仕事が忙しいばかりになかなか会いに来れなくてごめんな。今日は一日休みをとったから3人で過ごそう」
「本当ですか!嬉しいです!……真緒梨は、もう大丈夫なの?」
「はい!すっかり熱も下がって、元気ですよ」
ニッコリとしながら言えば、李王兄様も同じように微笑んでくれた。
いつも座っている李王兄様の隣の席へと向かう。まだ身長が全然ないから椅子によじ登ると、それを微笑ましそうに見てくるお父様と李王兄様。そんな顔してないで、手伝って欲しいんだけど……。
「さぁ、食べようか」
私が席にしっかりと座れば、お父様はそう言った。いつもの様に、豪華な朝ごはんが並んでいて食欲を唆る。それに、熱があったからちゃんとご飯を食べれていなかった為、お腹はペコペコだ。いただきますと言って、出された料理を口に運ぶ。
「美味しいです!」
やっぱり、うちの料理長の腕はいいなと、改めて思った。
朝ご飯を食べ終わり、着替えるために一度部屋に戻る。
「真緒梨お嬢様、今日もとても愛らしいです」
フリフリのワンピースに着替えた私を見て、使用人達はうっとりと頬を染め、褒め称える。
「ありがとう!じゃあ私、お父様達のところに行ってくるわ!」
ずっとこのままで。
私を大切にしてくれた家族とも離れ離れにならずに、過ごせたらいいな。
そう願わずにはいられなかった。
取り敢えず、平穏な日々を @sagara-88
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