第2話 合流
――チルリルとメリナが入れ替わる数分前。
アルドとイルルゥはラトルで聞き込み調査をしていたが…。
「うーん。目立った手掛かりはなしかぁ。」
「おっかしいなぁー。まだラトルにいるはずなんだけどなぁ。」
近隣の人たちで魂のようなものを見た人はいないらしい。
「もうラトルにはいないのかもし――!?」
その時、酒場の前で大きな光が見えた。
「な、なんだ、今の光は?」
「あーーー!! 間違いないよ! あれはあの子の仕業だ!!」
狼狽えるアルドとは違い、イルルゥは「やっと見つけた!」というような反応をした。つまるところ、あの光がどうやら逃げ出した魂らしいということをアルドは理解した。しかし、アルドには一つ疑問があった。
「魂ってあんなに光るものなのか?」
「…。 ちょっとまずいかも。」
どうやら先ほどイルルゥが言った大変なことがもう起こってしまったらしい。事態は一刻を争うみたいだ。
「場所は酒場前だな! 早く行こう!」
「うん!」
―――――――――――――――――――――――
――ラトル酒場前。
アルドたちは酒場前で無事メリナとチルリルと合流できたのだが…。
「(何が一体どうなってるんだ?)」
そこには奇妙な光景が広がっていた。
「ちょっとモケ! そっちはメリナなのだわ! 早くこっちへ来るのだわ!」
「キュンッ」
モケとは真っ白な色をしたウーパールーパーのような四足歩行の動物で、チルリルの相棒である。
「むむむ~!! なぜノアはそちらにいるのにモケはこっちに来ないのだわ!」
ノアは青い色をした犬のようで狐のような不思議な生き物で、メリナの相棒である。
そして現在、チルリルとメリナの中身は入れ替わっている状態なのだが、ノアはそれに気づいたらしくチルリル(メリナ)の傍にいる。しかし、残念ながらモケは入れ替わっていることに気が付いておらずモケもチルリル(メリナ)の傍にいる。つまり今、チルリル(メリナ)の傍に二匹ともついている状態であり、メリナ(チルリル)はそれが非常に気に食わないらしい。
「ちょっと! メリナも何か言ったらどうなのだわ!」
「……。」
しかし、これに関してはメリナはどうすることもできないので完全なるとばっちりである。
「おーい、メリナー、チルリルー。」
アルドは状況が全く理解できず、すかさず二人に声を掛けた。
「あ! アルドなのだわ! もう一人の子は誰なのだわ?」
向こうもこちらに気が付いたが、イルルゥとは初対面らしく不思議そうな顔でこちらを見ている。
「イルルゥだよー。 よろしくね♪」
「よろしくなのだわ!」
アルドはなぜメリナがこんなに元気なのか、そしてなぜチルリルの傍にはモケとノアの二匹がいるのか、まるで理解できなかった。
「一体何があったんだ?」
アルドがそう聞くと今度はチルリルが答えた。
「実は―――」
―――――――――――――――――――
「な、なるほど」
アルドはようやく状況を理解することができた。
「つまり二人はその謎の光のせいで中身が入れ替わったんだな?」
「ええ、そういうことよ」
チルリルがクールに答えた。アルドはその様子にすごく違和感を覚えた。なにしろ性格が真反対の二人が入れ替わってしまったため、見た目とのギャップがすごいのである。
「(これは慣れるのに時間がかかりそうだな。それにしても、チルリルも普段からこれくらい落ち着きがあるといいんだけどなぁ)」
アルドはチルリルの姿をしたメリナを見てそう思った。
「アルドたちはどうしてここに?」
メリナがアルドに尋ねた。これにはイルルゥが答える。
「実はね――」
――――――――――――――――――
「なるほど。つまりあの火の玉の正体は煉獄界という場所から逃げ出した魂ってことなのね。」
「巻き込んじゃってごめんね~」
イルルゥが申し訳なさそうに言った。そして、これでやっと現在の状況が理解できてきた。煉獄界から逃げ出した魂はラトルにやってきていた。そしてその際、なぜかチルリルとイルルゥの中身を入れ替えどこかに逃走した、というわけである。
「でもイルルゥ。中身を入れ替えるなんてこと可能なのか?」
「うーん。原理としては魂を入れ替えたんだろうけど…。そんなことできる魂なんて聞いたことないよー。」
アルドの疑問にイルルゥが答える。アルドはイルルゥからいたずら好きの魂というのは事前に聞いていたが、さすがにこれは予想外であった。そして、イルルゥ本人もまさかの事態で驚いているようだ。
「あっ! いましたメリナ様!」
するとそこへ神官の男が一人やってきた。そして神官はメリナ(チルリル)のもとへと行き…。
「メリナ様。もうすぐ任務のお時間です。」
「えっ? 何のことなのだわ?」
当然中身が入れ替わっているのでチルリルには何のことだか理解ができなかった。そしてこれにはメリナが対応する。
「ごめんなさい、今大事な話をしているの。すぐ行くから先に行っててちょうだい。」
「は、はい! かしこまりました。ティレン湖道で待っています。(今日のチルリル様はなんだかクールだな。いつもこれくらいクールならいいのに…。)」
神官の男は密かにそんなことを考えながらも指示に従い、ティレン湖道のほうへ駆けていった。そして、メリナがチルリルのほうを見て言った。
「さてチルリル。あなたに一つ頼みがあるわ。」
「(あのメリナが私に頼みがごと!?)わ、わかったのだわ! しょうがないから剣持つ救世主であるチルリルが手伝ってあげるのだわ!」
チルリルはライバルであるメリナに頼られるのがよほどうれしかったのか、とてもウキウキした声で答えた。でもやっぱり上から目線なのはいつも通りである。
「私の代わりに任務を受けてほしいの。詳細はあの神官から聞けばわかるから。あと、これが一番大事なんだけど…。」
メリナはなぜかとても心配そうだった。
「な、なんなのだわ! もったいぶらないで早く答えるのだわ!」
そんな様子にチルリルもなんだか不安になってきてしまい、メリナに早く答えるよう催促する。そしてメリナは意を決したように答えた。
「…あなたには私のふりをしながら任務を受けてほしいの。」
「………へ?」
チルリルは目が点になっていた。なんでそんなことをわざわざもったいぶって言う必要があるのか彼女にはわからなかったからである。
「だってあなた私と性格真反対だし、語尾は特徴的だし、なんていうか、その、すごく心配なのよ。」
メリナは申し訳なさそうにそう答えた。しかし、チルリルもこれだけ言われれば黙ってられない。
「舐めないでほしいのだわ!!」
「!! そ、そうよね。 ごめんなさい。」
「いい? 見てなさい! その目にとくと焼き付けるといいのだわ!」
そう言うとチルリルは息を整え、深呼吸をした。そして…。
「おっほん。…私は翼持つ子メリナ。次はいい子に生まれてきなさい。」
「おぉ!!」
アルドはこの演技を見て驚いた。なにしろ完全にメリナを再現できていたからである。メリナもこれには驚いているみたいだ。イルルゥは普段のメリナを知らないためポカンとしている。
「ふっふーん! こんなの楽勝なのだわ! 腕を組みながらクールに話せばいいだけなのだわ!」
確かにその通りなのだが…。メリナはそう思われていることになんだか納得がいかなっかたが、演技自体はほぼ完ぺきなので何も言わなかった。
「…それじゃ、任せたわよチルリル。」
「わかったのだわ! 行ってくるのだわーーーー!!」
メリナがそう言うとチルリルはすぐにティレン湖道のほうへ駆けて行ってしまった。”だわ”という口調のまま…。
「(あぁ…、本当に心配。)」
メリナは心の底からそう思った。しかしここで、イルルゥがあることに気付く。
「ねーねー、アルくんとメリナちゃん。わざわざチルリルちゃんが演技しなくてもさっきの神官さんに事情を全部話せばよかったんじゃないの?」
「「………あ。」」
確かにそのとおりである。メリナは入れ替わっていることを知られたら不味いと思いチルリルに演技するよう言ったのだが、実際バレても困ることは何もない。むしろチルリルの姿のままメリナ自身が行っても良かったのである。
魂の入れ替わりという緊急事態に狼狽えていたせいか、誰もそのことに気が付くことができなかった。そして、冷静になったメリナは今日の仕事量がいつもより多いことを思い出す。
「(…ごめんなさいチルリル。)」
メリナはチルリルに心の中で謝罪した。
next ”神童”チルリル初任務
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