死後の世界

私は死んだ。

人間は死ぬと必ず“ここ”にくる。

ホテルの披露宴会場のようなだたっ広い空間。

“ここ”は、死者が魂となって集まる場所である。

命あるものは、生を終えるとここに集まり、生前の行いに応じたポイントを受け取り、そのポイントを使って次の生を買って、生まれ変わる。

そういうシステムになっている。

輪廻転生とはそういうシステムの事を言うのだ。

生前の行いが良ければポイントは高く、行いが悪ければポイントは低い。

ポイントが低ければ、次の生が質の悪いものになるため、いかに生前に多くの

ポイントを稼ぐかが重要である。

私の人生はどうだったか・・・そう思い出していると、係の人が寄ってきた。

係の人といっても人では無い。見た目は人間だが、死者が集まる空間である以上、

人である訳が無い。

「お疲れ様でした。こちらがあなたの人生で得たポイントになります。」

そう言って係の人はタブレットを見せてくる。

そこには、私が生前に行った行為についてのポイントが細かく記載されている。

私は35歳で自殺した。学生時代からいじめられ、社会に出てもいじめられ、

ビルから飛び降り自殺をした。

こう聞くと悲惨な人生だが、そういう人生を選んで生まれたので、全て予定通りのことだ。

そのおかげで、10億ものポイントを受け取ることができた。

上出来である。平均4億ポイントと言われるポイントを、6億も多く手に入れられたのだ。これで次の人生はさらに良いものに出来る。

「ご納得いただけたら、こちらにサインをお願いします。」

タブレットにサインをし、係の人に渡した。

「それでは、次へご案内します。こちらへどうぞ。」

係の人が、部屋の隅にあるブースに案内してくれる。

部屋の隅には、いくつものブースがある、そのブースで次の人生を決めるのだ。

ゲームのキャラメイクのような感じといえばわかりやすいだろうか?

「では、こちらに座ってお待ちください。こちら読んでおいてください。」

そう言って、係の人は冊子を渡し帰っていった。

冊子には、次の人生を買うアドバイスなどや、メリットデメリットなどが書いてある。

ここで、もらったポイントを使って人生をセレクトして行くのだが、

どんなに高い人生を買っても、結果が良いものになるとは限らない。

人間界で生きて行くうちに、悪い人たちに足を引っ張られ、落ちて行く人はもちろん、犯罪に手を染めたり、自ら死を選んだりなど、落とし穴はいくつもある。

人生は投資みたいなもので、10億使って次の人生を選んでも、終わってみたら4億にしかならないこともある。

確実に増やす為には、ここでのセレクトに全てかかっているのだ。

そのためのアドバイスなどが、この冊子には書かれている。

「お待たせしました。今回はいかがしますか?」

そう言いながら、輪廻インストラクターが現れ、パソコンのようなものを操り出した。

輪廻インストラクターとは、次の人生を相談しながら一緒にカスタマイズしてくれるコンシェルジュのような方で、簡単に言うと神様みたいな存在だ。

「まずは、性別から選んでいきましょうか?男性・女性・レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーどちらにしますか?」

最初の悩みどころである。

男性女性はオーソドックスである分、人生が平坦になりやすく、獲得ポイント的にも

平均になりやすい、まぁ最も堅実な感じになる。

それ以外のいわゆるLGBTを選ぶと、波乱の人生になりやすく、上手くすれば大量のポイントを得られる反面、最低ポイントにもなりやすい。

少しギャンブル的な要素がある。

ただ、以前に比べるとLGBTに対してかなり認知度が上がり、以前は自死を選ぶ率が非常に高かったのだが、最近はそのリスクはだいぶ改善されてきた感はある。

女装家などの活躍や世界的な認知運動のおかげで、高ポイントを獲得することも夢ではなくなってきたからである。

トレンドとしては、この流れに乗るのもありである。

しかし、トレンドでいうなら、今最も乗っているのは女性である。

男性社会から男女平等を目指す流れは、今後もっと加速して行くと考えられる。

今、投資するなら女性がオススメなのだ。

「女性でお願いします。」

「トレンドを抑えてますね。女性はこれからまだ伸びますからね。」

そうすると、輪廻インストラクターはタブレットを差し出し、

「続いて、この中から両親を選んでください。」と見せてきた。

次の悩みがこれだ。

男性女性に限らず、ビジュアルは大きな武器である。

ビジュアルがいいに越したことはない。

ビジュアルが良い貧乏人を見たことがないように、やはりビジュアルで左右されるのがこの世の常である。

そして、女性の場合は胸の大きさも重要になる。

大きな武器になるからだ!

より良い人生を送るための武器は、多いに越したことはない。

その為にも、両親選びは慎重にならなくてはならない。

タブレットには、さまざまなカップルが並んでいる。

この中から、両親を選ぶ。

「子供は親を選べない。」などというが、しっかり選んで生まれてくるのだ。

ここでの記憶がなくなるだけである。

両親を選ぶことで、結構なことが決まってくる。

おおよその国籍・兄弟の有無・財政状況などなど、人生の序盤のほとんどが決まると言っても過言ではない。

両親のステータス・離婚の危険度などしっかり確認しながら、

慎重に選ぶ必要があるのだ。

両親のステータスで重要視しなくてはならないのが、

両親の若い頃のビジュアルと知能、両親の祖父や祖母のビジュアル、

そして“両親”のカップ数である。

ビジュアルがいい場合、子供もビジュアルが良くなる可能性が当然高い。

しかし、ビジュアルの悪い両親でも、祖父や祖母がビジュアルがいいと、

隔世遺伝をすることで、ビジュアルが良くなる可能性が高くなる。

当然、優勢遺伝・隔世遺伝・劣勢遺伝などは選択可能で、

ビジュアルの悪い両親でも、劣勢遺伝を駆使すれば、ビジュアルが良くなる可能性もある。

しかし、その可能性も未知数のため、ここでもギャンブル的な要素が増えてしまう。

そして、重要なのが、両親のカップ数だ。

生まれた子の胸が大きくなる為に必要な要素は、母親のカップ数だけではなく、父親のカップ数も関係する。

計算式はこうだ。

(父親のカップ数+(母親のカップ数−掌の長さ))÷2

これで娘の基本カップ数が求められる。

あとはどういう生活を送るかで多少の前後はある。

これらを踏まえて選ばなくてはならない。

やはり、狙うのは祖父や祖母まで遡ってもビジュアルが良く、両親のカップ数が大きい親の、優勢遺伝を狙うのが最も手堅い。

そんな優秀な両親がいるのか・・・探さなければならない。

ページをめくっていると、ビジュアルが抜群の2人が目に止まった。

急いでステータスを確認する。

アメリカの有名女優とミュージシャンのカップルだ。

ビジュアルは抜群だが、ミュージシャンのカップ数が小さい。

妥協はダメだ。ここで妥協すると後が辛くなる。

もっと探せ!探すんだ!

ページをめくっていくと、いた!!

ビジュアルは悪くない。

日本の旅館の女将と料理人のカップル。

女優やミュージシャンに比べると少し劣るが、素人にしては整った顔である。

母親は、大学のミスコンで準グランプリを取っており、芸能事務所にもスカウトされた過去を持っている。

父親は、料亭で修行中にテレビの取材を受け、イケメン料理人として注目されたこともあった。

40代でこのビジュアルなら文句はない。

さらに、財政状況もよく、胸のカップ数も大きい。

この2人の子供なら、Fカップは堅い!

本来、おっぱいだから柔らかいのだが、堅い!

この2人の子供でFカップなら、グラビアアイドルくらいにはなれるだろう。

そして、兄が一人いるのがいい。

異性の兄弟は、思春期に兄が友達などを連れてくることもあるので、早い段階から

異性を意識できる。

ビジュアルを磨く土台を早く手に入れられる可能性がある。

これはかなりの優良物件だ。

よしこれに決めよう!

「すいません。この両親に決めます。」

「この方々ですね。」

そういうとインストラクターはパソコンをいじり始めた。

しばらく待つと

「この方々ですと、6億ポイントになります。

6億ですと、残り4億でスキルなどをつけていかないとならないので、

少し心許ないかと。どうします?」

スキルとは、生まれた後の人生を左右するもので、

例えば、芸術系スキルをつければ、アーティストになれる可能性が上がり、運動系のスキルをつければ、スポーツ選手になれる可能性が上がる。

両親選びとスキル選びは並行して考える必要がある。

両親を安く上げて、スキルに多くつぎ込むと、家庭環境が悪くなり、そのスキルを発揮することは叶わないなんてことにもなる。

例えば、どんなに優秀なスポーツスキルを持っていても、貧乏でスポーツどころではない家庭に生まれれば、間違いなくヤンキーになり、暴力団などの反社会的な組織に身を置くことになる。逆もまた然りで、家庭環境が良すぎると、そもそもスポーツなどやらせてもらえない可能性もある。

この両親であれば、音楽系のスキルと芸術系のスキルを付ければ、ある程度何とかなる。音楽系スキル+5と芸術系スキル+5は欲しい。

しかし、4億ではどちらも+3が限界である。

音楽や芸術の世界でプロになるには、最低でも+7〜8は必要なため、

プロとして生活するのは無理である。しかし、例えばデザイン関係の仕事をするとか、音楽関係の仕事をするくらいなら+4以上あればなんとかなる。

どうするか・・・・

この際、運動は捨てる!

そこそこのビジュアルの女子ならば、芸術スキルを+5にして、音楽系スキルを+1にすれば、アパレル系の仕事に就ける可能性が高くなる。

音楽系スキルは、友達とカラオケに行って恥ずかしくない程度あればいい。

芸術毛スキルがあれば、器用さ・知性・美意識などにプラス効果があるので、化粧なども上手くなるはず。

よし、見えてきた!

「スキルは、芸術系スキルを+5にして、音楽系スキルを+1にしてください。

これなら、4億でなんとかなりますよね?」

「う〜ん・・・ただ、運動系スキルが0だと、健康面で不安が残ります。寿命が短くなる可能性や、持病持ちの危険が高くなります。芸術系スキルは、筋力や体力にマイナス効果があるので、ここは音楽系を諦めて、運動系を+1にする方が無難なのでは?」

確かに、早くに死んでしまっては、せっかくのFカップが育つ前に終わってしまう。

「わかりました、ではそれでお願いします。」

「かしこまりました。ではこれでプランニングにかけます。プランが完成したらお呼びしますので、あちらでお待ちください。」

インストラクターに促され、ブースの隅にある長椅子に座った。

これからプランニングが始まる。

プランニングとは、私が選んだ両親と基本スキルを人生生成プログラムに入力、

人生を設計し、出来上がったものに、時代背景や経済背景、生まれる国や両親の人生などの補正をかけて出来上がる。

これにより、前回の私は35歳で自殺する人生を選んだわけだ。

人生は、長く生きるか、苦しければ苦しいほどポイントが高い。

なので、35歳と短い人生で高いポイントを得るために、若い頃から苦渋を舐めるような人生を選択したのだ。

もちろん虐めていた方も、そういう人生を選択していたと言うことだ。

おそらくそっちはあまりポイントが高くないのだろう。

そんなことを考えていると、声がかかった。

プランニングが終わったようだ。

「概ね問題ないですね。この両親とスキルだとざっくりこんな人生になります。」

と人生プランを提示された。

8月10日生まれの女の子

出身は三重県

身長は中学生からグンと伸びて最終163センチ

体重の推移は・・・18歳から48〜56キロで推移し、40超えて少し肥えるのか・・・まぁ無難だな。

11歳で初経、胸は中三でEカップまで成長。

持病は、肩こり、歳取ってからの腰痛、これも無難だ。

??なんでだ?

「この40歳で夫を撲殺ってありますが・・・」

「はい。40歳で鈍器のようなもので夫を撲殺します。旦那さんの浮気か何かですかね〜。トロフィーのようなものでズドンです。」

「これは確定なんですか?」

「確定イベントです。その後、刑務所で刑期を終えて、余生を過ごすことになります。ちょっと後半しんどい人生になりますね。その分、前半は楽しい人生ですが。」

「そうなんですか・・・殺すんですか・・・怖いですね。」

「まぁ殺される方も、殺される前提で生まれてきますからね〜。その記憶は無くなりますが。」

「ですね。」

「それと、一応これもボーナス対象なので、4億のボーナスポイントが着きますよ。」

「良かった。じゃあそれでお願いします。」

「では、こちらにサインをお願いします。」

出された書類にサインをした。

こうして、私は40歳で夫を鈍器のようなもので撲殺する女性に生まれ変わることになった。

「さぁ!やるぞ!」











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