放タル制作秘話 その1

◆はじめに


「放課後のタルトタタン~穢れた処女と偽りの神様~」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054954440294


 ランキングは132位から106位。もう1回くらい2桁行きたいですね。


 さて、今回は放タルはこういう風に作られたという話です。


 連載終了後により突っ込んだ解説がしたいという話しはしたと思うのですが、個々のエピソードに触れるよりも先に、まず物語全体がどういう経緯で成り立っているかというところに触れておいた方が整理しやすいかなと思ったのです。


 一部、以前にも触れた内容になってきますが、今回は本編のネタバレ込みでより詳細に語っていきます。



◆狼は天使の匂い


 何度か言っているように、放タルはデイヴィッド・グーディスのノワール小説『狼は天使の匂い』から想を得ています。


 故郷で兄を殺してお尋ね者になった主人公が強盗団に拾われてその一員となるというケイパーストーリー。


 冬の路上を彷徨うところからはじまる導入部だったり、そこで謎の人物たちと遭遇し仲間になるという過程、後に明かされる主人公の真の背景、超自然的な力による不条理な展開など、影響を受けた部分は数知れません。


 ケイパーものは通常、なんらかの犯罪計画がプロットの中心となってきます。その準備だったり実行のプロセスが読みどころと言っていいでしょう。


 しかし、『狼は天使の匂い』は少し趣が違うのです。犯罪計画そのものはシンプルで、しかも、これといった理由もなく不条理な形で破綻します。ではグーディスの関心はどこにあったかというと、主人公の心情や強盗団の人間関係です。


 よるべなき主人公が束の間の居場所として強盗団の一員となり、秘密を隠しながら仲間として認められるべく立ち回る。主人公に反発を覚える乱暴者もいれば、彼に色目を使う女もいて、さらに彼が成り行きで殺してしまった男の妹までもが登場します。


 彼らはひとつ屋根の下で共同生活しており、ストーリーのほとんどはその拠点の中で展開していきます。


 これだけ舞台設定が限定的でも長編は書けるんだなと感心した覚えがあり、いざ小説を書こうと思ったとき参考にすることにしたのです。


 そんなわけで、メインキャラの知佳、カナ、蒼衣、瑞月という4人組のイメージが生まれました。


 この4人を中心に話を作っていこうというのが最初期の構想でした。



◆セントラルクエスチョン


 問題はジャンルの部分で、最初は普通の学園ミステリをやるつもりでした。


 ミステリである以上、被害者が必要となり、そこで生まれたのが六花というキャラクターです。


 普通の女子高生が主人公なので、警察に先んじて真相にたどり着くという展開はむずかしく、公には自殺ということになっているという設定でした。初期りんごシリーズはこの頃の設定で書かれてます。

 

 この頃、全体の構成がぼんやりと浮かぶようになりました。カナがメインヒロイン的な役回りを演じることもこの時点で決まっています。


 ただ、やっぱりミステリ的な部分が全然浮かばなくて苦戦しています。とっかかりがなかったんですよね。ストーリーの外枠から決まってしまったので。


 導入部は書いてたんですけど、そこから先が浮かばない。間が持たない。


 どうしたものかと思ってたとき、現行の第1話のイメージが降りてきました。


 最初は、知佳が転校初日に校庭に供えられた花を見るという導入をイメージしていました。


 それが六花への手向けの花だったわけですが、普通すぎてつまらんとなんとなくりんごに変えることになり、そしたら今度はそれを通学路の時点で転がせばおもしろいんじゃないかと思ったのです。現行の第1話の誕生ですね。


 そしたら今度は、自殺した生徒がいたっていう展開も普通すぎる気がして、りんごは神様への供え物なんだというアイディアにたどり着きました。


 りんごからの連想で心臓が絡む怪談をでっち上げ、なんとなく非日常っぽい場所の屋上に祠を建てました。カナもそこでスタンバイです。おお、だいぶ現行に近づいた。


 しかし、やっぱりそこからが浮かばない。


 幻想ミステリの方向に舵を取ることは決めたのですが、何せ長編の書き方がわからない。


 結末はすぐ思い付いたんですけどね。


 カナが六花と同じように神隠しに遭うというクライマックスはボーイミーツガール的なストーリーの定番かなあと。ジブリ作品とか君の名は、天気の子なんかも終盤で一度会えない展開になりますよね。そこからふたたび出会うのがやっぱり王道だよなあと(当時は君の名はもまだ公開されてませんが)。


 で、どうやって再会するのかと考えたとき知佳の過去が使えると思ったのです。


『狼は天使の匂い』の影響から、知佳にも暗い過去を用意することにしたので、操緒の設定も早い段階でできていました。ただ、この頃は双子ではなく、実理の設定もなかったんですけど。


 猟奇殺人として世間の耳目を集めた――というイメージもあったので、そこから心臓だけが見つかってないバラバラ殺人という設定にたどり着いてます。さらに、心臓だけが見つからない理由として、食べたことにしようと思い付きました。


 終盤はだから、知佳がいったん故郷に戻り、「忘れ物」を取ってくるという展開にする必要がありました。


 ここも最初は現実的に操緒が丁寧に保管してどこかに隠してて、それを知佳が推理して探すというイメージだったのですけど、うまいアイディアも浮かばず、ここでぐだぐだと現実的な手続きを描くのもどうなんだろうと完成形ではすっ飛ばしてます。


 現行の里帰り回で、エジプトの動画を見てるモブの女性がいますけど、あれはミイラという単語を引っ張り出したいがためで、かなり強引な伏線です。


 実際にはミイラは内蔵を取り出して作るそうで、内蔵の長期保存ってむずかしげなんですよね。それもあって血を飲み干して萎んだ心臓のイメージにたどり着いたんですが。そこの手続きも現実的に描くとなるとまた無駄に煩雑になるなあと。


 そもそもここは最大のご都合主義部分ですからね。そんなピンポイントで主人公が必要とするものがあらかじめ用意されているなんてちょっと偶然が過ぎるじゃないですか。だから現実的に描いてもダメだなと。


 予知の設定もここから必要とされてるんですよね。操緒がすべて知った上でこの状況を作ったとも解釈できるようにしたかったんです。その方がよっぽど非現実的なんですけど、フィクションにおいては偶然よりもファンタジーの方がまだ説得力があるので。


 また、この解決法にあらかじめ触れておく必要があったので、カナが動物を殺してその心臓を取り出しているという設定も決まりました。


 そんなわけで、セントラルクエスチョン回りの部分は最初に完成していたんですよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る