Web作家としての歩み 後編

(承前)


◆戀の測りがたさに比べれば


「読者を意識するようになった」という話に戻るのですが、具体的にどう作品に反映させたかというと、これがまた安直で、LOVEの要素を入れるってことでした。


 それまでそういう要素がなかったわけではないのですが、恋愛ものとして読まれることを意識して書いたものってたぶんなかったんですよ。


 そこをちゃんとロマンスとして読んでも満足してもらえるように書こうと、したんですが……


 ここですよ、ここ。


「よくわからない」って部分。


 恋愛ものとかロマンスと一口に言っても、男性向け女性向けという区分をはじめいろいろとあると思うのですが、わたしはよくわからないので「当たり障りのないアオハル異性愛」を意識して書くことが多かったんですよね。


 積極的に読者を刺しに行く、キュンとさせるという書き方ではなくて「余計なことを書かず万人向けを狙う」という戦略を取っていたということです。


 いや、刺しに行けと言われても、どうすればいいかわからないのですけど。


 人気の作品を読めば、ある程度パターンはわかるのですけど、それを「そういうパターンだから」となぞったものがはたしておもしろいのか、書いてて楽しいのか、と。


 そんな感じでこの辺まったく自信がないので、恋愛要素の扱いに困ってるんですよね。


 結論として、「恋愛」との付き合い方がよくわからないということです。



◆エモ船来襲


 というのがだいたい2019年くらいまでのことなんですが、2020年にちょっと転換点がありまして、自分の中ではこの年を「3期」のはじまりと位置付けています。


 というのも、久しぶりに合同誌に寄稿する機会があったんですよね。


 これは主催の方から声がかかったわけではなく、自分から手を挙げてます。


 主催の方がカクヨムとTwitterのフォロワーだったんですが、数少ないつながりからたまたまそういう機会が得られたので、これは貴重だと思い乗っかったんですね。


 この合同誌が総勢16人の大所帯だったんですけど、各人が原稿を提出して終わりって感じではなく、けっこう密にやりとりすることになったので、一気に人脈が広がった感じです。


 特にわたしは主催の方以外ほとんど存じ上げなかった(名前は知っててもフォローはしてなかった)ので、劇的な変化でしたね。


 作風的にも、いままで交流させていただいてた方々とはちょっと毛色が違って、簡単に言えばファンタジーとか女性向け作品の文脈をここで垣間見ることになります。


 そもそも、この合同誌のお題が「自分がエモいと思う作品」でして(正確な文言は違ったと思いますが)、これが実は自分的に新鮮だった部分です。


 うまく言えないんですけど、この合同誌に書き下ろした作品は自分の中でも手応えがあって、自分らしい主題を明快なエンタメに昇華できたと思うのですよ。


 それはたぶんこのお題設定のおかげだな、と思うんです。


 なんというか、「エモい」っていうのは「おもしろい」よりちょっと狭い範囲の言葉だと思うのですよ。

 ちょっとだけ個人的で、ちょっとだけマニアック。


 それだけに、刺さる人にはより刺さる。

 そんなイメージです。


 そういう方向性の絞り方ができたので、納得して書けたというか。


 これまでの作品がレシピ通りに作ったバーモントカレーだとして、ちょっとだけアレンジを加えて作れた、という感じですね。


 恋愛要素はまったくない話だったんですが。

 


◆三歩進んで


 とはいえ、2020年はそれきり何も発表できなくて今年になっちゃうんですよね。


 また同じ方の主催でイベントがあって、それ用に「かくれ鬼」と「復活のプリームラ」を書いて、毎年恒例のKACがあって、そしていまに至るという感じなんですが――


 よく、「時間が経ってから作品の粗が見えてくる(ので原稿は寝かせた方がいい)」とか言いますが、わたしは逆に発表直後が一番自信がなくて、数ヶ月経ってようやくいいところを冷静に評価できるようになるという感じなんですよね。


 なので、小説が書けるときの原動力ってだいたい前作の反省なんですよ。反省を踏まえて次はもっといいものを書く、というモチベーションで回してるんです。


 が、書いた直後は自作を評価できないので、いくら書いても全然うまくいかないという絶望感で次第に筆が重くなって止まってしまうんですよね。で、数ヶ月後にちょっとだけ自己効力感が蘇ってくる。


 なので、いまはまだ今年の作品――特にKAC作品を冷静に評価できてないと思うのですが――なんかねえ。正直手応えなかったです。


 KACはいろいろと制約があるうえに、今年は10連戦ですから、クオリティを維持し続けるのは至難の業ではあるのですが、全体的に中途半端だった気がします。


「エモ」を意識したものの、見せ方に迷いがありましたね。


 なので、けっきょくコツをつかめたんだかつかめてないんだかという感じです。


「かくれ鬼」もちょっと力技だったなあという反省がありますし、「復活のプリームラ」は狙った通りに書けたもののもうちょっと膨らませられたかもなと。


 個人的な手応えで言うなら、今年は現状プリームラですね。原点回帰的な内容でありつつ、新しいこともやってて、これまでの流れも踏まえてるので。


 この作品を現時点での到達点として、その延長線上にあるものを書いていきたいと思います。



◆まとめ


 長くなった割りにうまく説明しきれた気がしないのですが、さすがに今回でこのテーマは終わりにします。


 結論としては、やっぱり「エモ」を一つの指針としてやっていくことになるとは思うのですが、同時に作品としての遊び心というか実験性がほしいなと思ってます。


 なんかね、「8年もやってるんだからちゃんと完成された作品を書かなければならない」と自分にプレッシャーをかけすぎてたんじゃないかなあと。


 実験作じゃなく実践作を書こうとしてたんですね。


 Webで発表するならば、Webでちゃんと評価される作品を書け、と。


 もちろん、自分で納得できる内容であることが前提です。


「両方」やらなくっちゃあならないってのが「Web作家」のつらいところだな。


 ただまあ、少なくとも短編は毎回そんな気負って書く必要もないと思いはじめてて、理論倒れ上等の実験作も書いていければなと。

 実際性がない理屈って楽しいですからね。


 思えば、初期はそういう実際性がない理屈を文章で無理矢理押し通そうとしていて、ゆえにいまよりも文章がうまく感じるんでしょうね(何度か言ってますが、わたしは書きはじめた頃が一番文章がうまかったと思います)。

 

 なので、無茶があるくらいの方が文章は書きやすいんだろうなあと。わたし、無駄が嫌いなので。自明のことは書いたってしょうがないと思うのです。

 

 そんな感じで、ここ数年読者を意識してきた揺り戻しが起きているという話でした。

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